やぎ座
魔術的生起の季節
「うずうず」を味わう
今週のやぎ座は、「疼くの字「冬」を宿せり冬が来る」(西嶋あさ子)という句のごとし。あるいは、身に訪れたナマの感覚にきちんと従っていこうとするような星回り。
冷たい外気に触れたときの肌のピリッとした痛みや、静電気、水洗い、唇や喉の乾燥、歯の知覚過敏など、冬場というのは何かと「痛み」に見舞われやすい季節とも言えますが、特に原因のはっきりしない疼くような痛み(疼痛)が多いように思います。
作者もまた、そうした何らかの「疼き」に直面するなかで、ふと季節の移り変わりを感じ取ったのでしょう。痛みに見舞われると私たちは、その痛みや直接的な原因のことで頭がいっぱいになってしまいますが、と同時に、体躯のどこかで起こる軋みや響きを別の部位へと波及させていく共鳴板になりきっていきます。
「うずうず」に含まれるz音は「ずきずき」や「ぞくぞく」などと同様、そうした身体のなにかある大きな変化に抗うさいに必然的に人が立ててしまう音であり、特に「うずうず」は思わず飛び上がってしまうような未来への痙攣的なひきつりと、鈍重な響きをもった過去への引きずりが同時ないし交互にやってくるような不意の揺らぎを想起させるはず。
それは痛みのシグナルであるばかりでなく、何かしたいのにできないでいる際などの、貧乏ゆすりのようにからだが焦れてたまらない感覚であり、掲句ではやはりその両方の意味合いで新たな季節に臨んでいたのでしょう。
その意味で、11月30日にやぎ座から数えて「移り変わり」を意味する3番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、不意に起こった揺らぎの感覚を流さずきちんと味わって必要な備えに励んでいくべし。
マドレーヌ効果
プルーストの一大長編小説『失われた時を求めて』は、主人公がかつてそこに生き、暮らしたコンブレの町を舞台に展開されていきます。より厳密には、ある日物語の語り手が、一さじ掬った紅茶に浸した一片のマドレーヌを口にしたのをきっかけに、その味覚から幼少期に夏の休暇を過ごしたコンブレーの記憶が鮮やかに蘇ってくるという体験を契機に、少しずつ少しずつ時間をかけて再創造されていくのです。
つまり、その渦中で現に生きていたはずなのに、逆にあまりの間近さゆえに見失い、経験できていなかった町のリアリティに出会い直し、そこで初めて生を獲得していく。この点について、哲学者ドゥルーズは次のような言い方で言及しています。
コンブレは、かつて生きられたためしがない光輝のなかで、まさにそうした純粋過去として再び出現する。(ドゥルーズ、『差異と反復』)
この「純粋過去」とは、どこかに沈積している「現に生きられた瞬間」のことであり、プルーストにとって小説とは、突然の稲光のように、闇の中から露光してくる魔術的生起によって「過去の印象を取り戻す」ための装置だったのです。
同様に今週のやぎ座もまた、単にそれっぽい過去を反復していこうとする代わりに、これまで体験したことのない景色を再創造していくことになるでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
純粋過去の掬いだし