やぎ座
生きた現実を取り戻すために
生きる術としての民族の伝統
今週のやぎ座は、ある歴史の先生のぼやきのごとし。あるいは、自分が真に学ぶべきことは何だろうかと改めて問い直していくような星回り。
キルギスタン=カザフスタンの『盗まれた花嫁』(2007)という映画のあるレビューに、書き手の方が高校3年生の時に歴史の先生から聞いた忘れられない一言として、おおよそ次のようなことが書かれていた。
ぼくらは西洋と東洋と、まるで異なった世界と思っている。西洋と東洋とで国の成り立ちや歴史の有り様がまったく違うみたいに見える……でも、本当にそうだろうか?明治以降、欧米の文化や考え方を過剰なまでに取り入れてきたぼくたちは、西洋の思想や歴史に知らず知らずかぶれているのかもしれない。そして、力を入れて学ぶべきは、本当は中央アジアとか中近東なのではないか。この地域を軸にすえて歴史を組み立てたら、東洋と西洋という取って付けたような雑な区分が有機的につながって、一つの世界の出来事として見えて来るんじゃないだろうか。
考えてみれば、中央アジアを横断する古代の東西交通路であったシルクロードなくしては、日本の文化や宗教の根幹も形成されえなかったし、中世のアラブ世界で継承発展しなければ、古代のキリスト教世界で途絶えた星占いも現代にまで伝わることはなかった。
日本人は国家というものをどこかで絶対に揺るがないモノとどこかで思い込んでいる節があるけれど、中近東や中央アジアは歴史上国の境い目がたえず変動してきたし、そこに多様な民族が入り乱れてきたわけで、そこで暮らす人びとにとって大事なのは貯金通帳に記された数字やフォロワー数などではなく、生きる術として長く受け継がれてきた民族の伝統だったし、先生が言うようにそれこそ現代の日本人が真に学ぶべきことなのかも知れない。
25日にやぎ座から数えて「中長期的なビジョン」を意味する11番目のさそり座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、近代化された暮らしの中で自分たちが何を見失ってしまったのか、改めて考えてみるといいだろう。
寝台列車に乗って
スタジオジブリのアニメ映画『おもひでぽろぽろ』をご存知でしょうか。主人公である27歳のOLが夏期休暇を利用して義理の兄の実家の田舎へ農家のお手伝い体験をしに行くのですが、東京から田舎へと向かう寝台列車の中で、不意に小学5年生の頃の自分を思い出したことをきっかけに、何かが変わっていきます。
田舎が無いことで寂しい思いをしたこと、少しの間だけ同級生だった「あべくん」の苦い記憶、淡い初恋の記憶、たった一度だけお父さんに殴られたこと。そんな思い出とともに田舎で過ごしていくうちに、次第に主人公は農家の暮らしに魅かれていく―。
ここで言えることは、人はありのままの現実を即座に受け止められるほどに強くはないし、人の持つ「忘却」する機能というのは、神さまのくれたやさしさでもあるということです。人は弱いからこそ、何度でも忘れ去っていた過去の思い出を取り戻し、その間に身に着けた知恵や縁を通して、過去を生き直していく。
今週のやぎ座は、日頃の意識の構えをゆるめて、歴史や伝統だけでなく忘れていた個人的記憶についてもじっくりと呼び覚ましてみるのも悪くないかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
弱さと強さをいったりきたり