やぎ座
退屈の効用
まず骨身に徹して退屈を感じるべし
今週のやぎ座は、「退屈の克服」という難事業のごとし。あるいは、夢を大きく膨らませていく退屈な時間をきちんと確保していこうとするような星回り。
かつて澁澤龍彦は『快楽主義の哲学』というエッセイのなかで、次のように書いていました。「死の克服と同じくらいむつかしいのが、退屈の克服だ。(…)平凡な時間の連続のなかに、キラッと光るような瞬間がある。こいつを大事にしなければならない」と。
やぎ座の人たちというのは、ともすると人生は攻めの姿勢が大切で、迷っている暇があるならとにかく行動、行動、行動でスケジュールを埋めつくしていくことをよしとするようなところがありますが、このエッセイのテーマは、むしろひとつの行動の質が極限まで高まる快楽の頂点をいかにしてつかまえられるかにあり、それはどこかすごろくの「一回休み」状態の今週のやぎ座にとって大いに指針となっていくはず。
澁澤は「革命を起こす程の人間は、まず骨身に徹して退屈を感じる必要がある」とまで言うのですが、その鍵はおそらく自覚的な幸福での待機にあるのかも知れません。いわく、
幸福とは、静かな、あいまいな、薄ぼんやりした状態であって、波風のたたない、よどんだ沼のようなものです。いっぽう、快楽とは、瞬間的にぱっと燃え上がり、おどろくべき熱度に達し、みるみる燃えきってしまう花火のようなものです。
だからこそ、焦って早く花火を打ち上げようとするのではなく、「静かな、あいまいな、薄ぼんやりとした」沼にはまって、あれがしたいこれがしたいと自分を駆り立てる夢を大きく膨らませることが、打ち上げのためのエネルギーとなっていくのではないでしょうか。
その意味で、9月4日にやぎ座から数えて「無意識の溜め」を意味する12番目のいて座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、そう遠くないうちにやってくる快楽的瞬間を見据えて、あえて薄ぼんやりと過ごすこともよしとするべし。
名前のついていない仕事
とはいえ、「退屈な時間」といっても、別に何もしない自由な状態にある訳ではなくて、実際にはちょっとした家事労働だとか、2~3時間で終わるような細切れの仕事など、適切な報酬のもとで売買されていない生産行為にぽつぽつと従事しているはず。
こうしたまだ名前のついていない仕事は、得てして市場経済では過小評価されがちですが、一方で人間が人間らしい生活を成り立たせていくためには必要不可欠なサブシステムの役割を果たしていることも多いのです。にも関わらず、誰からも顧みられることなく放置され、おろそかにされていった結果、いつの間にか全体が立ちゆかなくなっていくという哀しいプロセスはこれまでも多くの人が経験してきたのではないでしょうか。
そして花火のような輝かしい「快楽」ということもまた、ただ自分勝手に消費し尽くすというのではなく、そうしたリスクにきちんと目を向けて、まずは平凡さの中に埋もれた名前のない仕事をひとつひとつ大事にしていくなかで、初めて可能になってくるのではないでしょうか。
今週のやぎ座は、日ごろから自分がどれだけ「名前のついていない仕事」を積み上げられているのか/いないのかということを、改めて突きつけられていくのだとも言えます。
やぎ座の今週のキーワード
シャドウ・ワーク