やぎ座
地層の形成
ブリコラージュする私たち
今週のやぎ座は、香港の屋上家屋のごとし。あるいは、カオスな世の中を生き延びていくための野性味を取り戻していこうとするような星回り。
日本語では「屋上屋を架す」という言葉は無駄なことをすることの喩えとして使われますが、香港には正式な許可なく黙認されている屋上建築物が半世紀以上も存在しており、そこに住んでいる低所得層や移民らにとって、屋根の上にさらに屋根を架けることは、生き延びるための手段に他ならないのだと言えます。
そんな香港の屋上家屋の生活を写真と図面と文章で紹介している『香港ルーフトップ』を見ていると、家屋の材料にはレンガやトタン、角材、ビニールシート、ベニヤ板、ロープなどさまざまな素材が使われていて、それらがあり合わせで調達されてきたことが分かりますが、そこには「(家屋が)住み手によって改変されていく」高い自由度と、そこに入り込んでくる来客や出来事の偶然性など、さまざまな文脈を経て生み出される野性的な豊かさが存在しているように思います。
本書に日本語版解説を寄せている大山顕は、そうして近代建築の上に、きわめて原始的な建築が乗っている様子について、「まるで建築史の地層が逆転したような光景」だと表現しており、「近代以前の香港の街並みが、下から生えてきた近代のビルによって空中に持ち上げられ保存されているように見えないだろうか」とも述べています。
その意味で、7月7日にやぎ座から数えて「ビルドアップ」を意味する10番目の星座であるてんびん座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自身のキャリアやコミュニティの設計にこれくらいの「野性味」を盛り込んでいきたいところです。
空間地図から時間地図へ
例えば、地図というものはその広がりの上に、われわれを取り巻く空間の特性を克明に映し出し、さまざまなゆらぎをもつ線に彩られて地形は変化し、また、道路や線路、駅や建造物など人工的な都市は整った幾何学的なかたちを伴って地表の表情をひきしめています。
ただ、そうして地図を眺める私たちは、空間の広がりだけでなく、無意識のうちにそこに時間の広がりも読み取っているはず。例えば、直線距離ではそう遠くないのに、いざとなると足が伸びず遠く感じる場所がある一方、そんなに近くないはずなのに、アクセスのよさも相まって足繫く通っている場所もある。
ゆっくり歩くこと、小走りすること、ふいに佇むこと、汗をかいて階段をのぼりおりすることなど、空間を移動し、時間を切り開く人の動きが、空間地図とは別の表情を見せる「時間線」ないし「心の距離線」をつむぎ、「時間地図」を誕生させていく。そして、そこで私たちは、異様に引き寄せられ接近してしまっている“お気に入り”の領域がある一方、意外なところに遠く取り残された孤島のごとき“不可視”の領域があることに気付かされる。
今週のやぎ座もまた、そうして日ごろの自分の行動がいかに多くのものを取捨選択し、編集を経ながら成り立っているかを振り返っていく中で、自然とみずからの「野性味」に気づいていくことになるかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
頭より先に手足が動き出す時や領域