やぎ座
世の物語を豊かに
鬼を生む
今週のやぎ座は、『西瓜太郎踊り出よと割てけり』(沼波瓊音)という句のごとし。あるいは、人工知能には真似できないような創意を働かせていこうとするような星回り。
桃太郎は桃から生まれたという理由でそう名付けられました。したがって、西瓜(すいか)から「西瓜太郎」が生まれてきても、不思議ではない。大きく丸い西瓜を見ているうちに、そんな思いつきが自然と生まれてきたのかも知れません。
しかし、西瓜は桃のような可愛らしい果実と違って、虎の模様のような皮に、真っ赤な実でできていますから、成長すれば桃太郎というより、物語では退治される側として登場した鬼が島の赤鬼のようになってもおかしくないような気もします。
そう考えると、これまでも人間の想像力を介してたくさんの「〇〇太郎」が生まれてきては、世の中にあふれる物語の登場人物としてその役割を果たしてきたのであり、それは人間が想像力を失わない限り、これからもそうあり続けるはず。
掲句はそんなメルヘン誕生の現場をおさえた一句なのだと考えてみるのも一興でしょう。その意味で、6月29日にやぎ座から数えて「創発」を意味する7番目のかに座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自由に想像力を働かせていくことで、この世の物語を豊かにしていく役回りに加担していくことでしょう。
人間らしさの本質にあるもの
『詩歌と芸能の身体感覚』という本の中で、芸能評論家の朝倉喬司は浪花節的なものの特徴について、次のように述べていました。
原型らしきものが出来たのが江戸の文化文政期と言ってもいいのでしょうが、社会的には最下層部分から立ち上がった。「非人」と言われた人たちとか、願人坊主とか、浮浪化した山伏というか、大道でいろいろな芸能要素がカクテルされて、そこでずっと芯に残ってきたものがあって、それが「唸り」ということだと思うんです。
つまり、社会の下層のいた庶民の生きるエネルギーが、闊達さを身上とした芸能を通して集団的・歴史的に凝集し、説法とも煽動ともつかない危険なリズムへと変換されたものこそ、浪曲という古典芸能の根底にあるリズムの芯であり、それは言わば身もだえするような人情のうねりなのでしょう。
そしてそうした「唸り」と「うねり」こそ、人工知能にはなかなか真似できない人間特有のあたたかみ、すなわち人間らしさの本質にあるもののように思います。
今週のやぎ座もまた、これまで胸の奥に秘めてきた思いや情念の固まりが時を得てほとばしり、誰かどこかへ目がけて解き放たれていくことになっていくかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
根底にある悲しみの表出