やぎ座
日常を愛でる
新しさの前に必要な古さ
今週のやぎ座は、『父の眸(め)や熟れ麦に陽が赫(か)つとさす』(飯田龍太)という句のごとし。あるいは、あえて温故知新に傾いていこうとするような星回り。
秋に種を撒かれた麦は初夏になると熟し、収穫を時期を迎える訳ですが、作者はそうしてスポットライトを浴びる麦畑に「父の眸」を重ねています。
作者の「父」である飯田蛇笏は、今日ではその名前が冠された蛇笏賞が俳壇の最高賞となっていることからも分かるように、いわゆる「偉大なる父」であり、作者は生まれたときからその「息子」としての生き様を余儀なくされてきた訳で、同じ俳人としての道に進んだ作者にとって、それは計り知れないほどの重圧だったのではないかと思いたくなるもの。ただ、作者の書いた文章には次のような一節が出てきます。
正直に告白すると、私は、自分自身の内部に宿るこころの古さに、自分ながら呆れかへつてゐる。その古くさいものが、適確にとらへることさへ出来ないで、何の新しさだらう……と考へてゐる。それどころか、その古さをつかまへること自体に、文学の新しさを宿す可能性を信じてゐる。
思えば、父と子の関係というのは深い謎のようなものがありますが、これを読むと作者自身は受け継いだものは受け継いだものとして、屈折することなく受け入れており、掲句の「熟れ麦」もまた自分に重ねていたのかも知れません。
16日にやぎ座から数えて「発展継承」を意味する11番目のさそり座で満月を迎えていくあなたもまた、みずからの内部に宿る古さをこそしかと見据えていきたいところです。
凡人としての自負
自分の中に古さを見出すとは、言い方を替えれば、自分自身をたぐいまれな「凡人」と見なすことに他なりません。そして、凡人であるということは、知識よりも生活の手触りを大切にするこということです。
その意味で、これまで当たり前のように身の周りに存在してくれてきた、あなたを取り巻くモノやヒト、コトの手触りを、謙虚な気持ちで自身の中に取り込んでいくことがやぎ座のテーマとなっていくでしょう。
あなたという存在は、あなたを取り巻く環境や記憶の作りあげたひとつの芸術品であると同時に、その鑑賞者であり、よき理解者なのです。
自分を愛でる視点を新たにし、改めて自分の価値を知っていく中で、あなたはそこであふれた喜びを他の誰かに分け与え、彼らの器を満たしていくこともできるはず。
やぎ座の今週のキーワード
ありふれた手触りをこそ深める