やぎ座
開かれ
みずから橋渡しになっていく
今週のやぎ座は、セゼールの“marronner(逃亡奴隷しよう)”という呼びかけのごとし。あるいは、新しい文化創造へと踏み出していこうとするような星回り。
フランスの植民地であった西インド諸島マルティニーク島出身の黒人詩人セゼールは、「白人のことばによって思考を飲み込まされた」として、詩的言語を通じて自身の内なる「ネグリチュード(黒人性)」を解き放とうとした人物でした。
例えば、ハイチの詩人ルネ・デペストルに向けて書いた詩「動詞“marronner”」には次のようにあります。
デペストル、きみも知ってるだろう!/詩はサトウキビをひく粉砕機なんかじゃない、ぜったいに。/もし詩が海の上を飛ぶハエかなにかなのなら詩なぞ捨てて季節まるごと海からはなれきみをこう説得しよう
笑い、飲み、逃亡奴隷しよう、と。
最後の「逃亡奴隷する“marronner”」とは、「島流しにする」という意味の英語「maroon」などに由来するセゼールの造語ですが、それは単に何かからの「逃亡」を意味するのではなく、それは逃亡奴隷という歴史的事実を抱く文化をあらたに作り直すための足掛かりであり、その実現のための巧妙な戦略でもありました。
その意味で、18日にやぎ座から数えて「ガイドライン」を意味する9番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、他者を巻き込んでいくべく、どれだけ不思議な流動と変異をはらんだ言葉を放っていけるかが問われていきそうです。
立派な人ではなく展かれる場所になる
日本では近代から現代に時代が進むにしたがって、「作家」という言い方で小説偏重の傾向が強まり、対して詩人は次第に単なる「ポエマー」として貶められてきました。しかし一部の人々、例えば哲学者の池田晶子は、詩人とは「ことばと宇宙とが直結していることを本能的に察知している者を言う」と書き、さらに次のように続けてみせました。
(詩人の)感受性は宇宙大に膨張し、そしてそこに在るもろもろのものへと拡散し、それらを抱えて再びことばへと凝縮して来る。彼は、ことばと宇宙とが、そこで閃き、交換する場所なのだ。(『事象そのものへ!』)
奇妙に聞こえるかも知れませんが、彼女にとって「詩人」とは、変わった属性の人間というよりも、何ものかが生起してくる1つの「場所」なのです。しかも詩を詠むとは、そうして生まれてきた言葉をただ既存の世界へと定着させていくことを指す訳ではありません。
あることばがそこに孕む気配、またあることばが既に帯びた色調、それらをかけ合わせ混合し、無限のヴァリエーション、未だ「ない」宇宙が、そこに展かれる場所なのだ。
すなわち、詩作とは、新たな宇宙をそこから展開していくことであり、そういう「場所」になりきってこそ、詩人と呼ばれるにふさわしいと考えていたのです。同様に、今週のやぎ座もまた、どんな宇宙を切り開いていけるか、またどれだけ「場所」になりきれるかがテーマになっていくでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
詩人とは、ことばと宇宙とが、そこで閃き、交換する場所なのだ