やぎ座
繋がり直せば、豊かさはそこに
「の」による自然な繋がり
今週のやぎ座は、「女湯もひとりの音の山の秋」(皆吉爽雨)という句のごとし。あるいは、いつの間にか失っていた心地よい余韻を取り戻していくような星回り。
ただ一人温泉の静けさに浸っていると、壁ひとつ隔てた女湯の方でも、こちらと同じくただ一人らしい湯を汲む音や、桶の音がかすかに聞こえる。
そうして浴場内を反響していく音は、作者の脳裏に女体を描かしめただけでなく、また山ちかくの温泉の静けさをも深めたのでしょう。これは「ひとりの音の」の最後の「の」がじつに巧みにきいた効果で、それまでの一人ずつの情景を「山の秋」と並列につなげていくことで、そこにさらに情趣を含ませ、どこか心地よい余韻をのこしえている訳です。
しかし、いまの日本社会では日々の生活や人間関係から、こうした心地よい余韻というものを感じることがどんどん少なくなっているように思います。それはあまりに自分優位か相手優位に偏り過ぎてしまっていて、そのあいだに「山の秋」のようなそのときどきに自然にもたらされる偶然や人間以外のことに関するリアリティの余白に、人びとの目が行かなくなってしまっているということと表裏にあるのではないでしょうか。
11日にやぎ座から数えて「既に与えられてある富」を意味する2番目のみずがめ座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、身の周りに秘かにたたずんでいる偶然や余白にしみじみと浸ってみるといいでしょう。
一文字の修正
人は日々、言葉と出会いもすれば、言葉とすれ違いもしています。そのいちいちを覚えていたり、記録することはできないものの、どこかで引っかかっている言葉や言い回しがあったなら、ああかこうかと一日中眺めてみたり、何か月かは時々思い出して咀嚼してみるのでなければ、いずれお手上げになって行き詰まってしまうのではないでしょうか。
例えば、三橋敏雄の有名な句を二つ。
出征ぞ子供等犬も歓べり(昭和16年)
出征ぞ子供ら犬は歓べり(昭和41年)
「も」と「は」。たった一文字の違いですが、その印象はガラリを変わってしまいます。後者は、状況を理解していない犬と子供たちだけが、なぜか人が集まって賑わっている状況を勘違いして喜んでいる光景であり、逆に言えば、犬をどこかで人間の下に見ています。
おそらく作者は、ずっとその「も」の一文字に引っかかりつつも修正できずにいたのでしょう。それで戦後になって、世の中の空気が変わって始めて、犬の存在にしみじみ浸ることができた。先の「偶然や余白に浸る」とは、こういうことでもあるのかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
自分をズラしていく