やぎ座
みずからの空間的分散
こちらは9月27日週の占いです。10月4日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
一茶の異国感覚
今週のやぎ座は、「蘭の香や異国のやうに三ヶの月」(小林一茶)という句のごとし。あるいは、意識する対象を意図的に分散させていくような星回り。
「蘭の香」は秋の季語で、作者が還暦直前の頃に詠まれた句。蘭には春に咲くもの、夏に咲くもの、秋に咲くものとたくさんの種類がありますが、歳時記では特に秋にふさわしい品のあるものとされています。
蘭の香りのなかで細い顔をあげる三日月という、きめ細やかで匂いのある情景は確かに「異国のやう」ですが、江戸時代の作者にとっての「異国」とは何だったのか。
おそらく地理的には山をいくつか隔てたくらいの距離感くらいだったのかも知れませんし、聞いたことはあれど行ったことも見たこともないオランダや、はるか海を隔てた西方浄土を想像していた可能性だってあるかも知れません。
ただここでは具体的にどうこうというより、もっと感覚的な漠たる想像が日常から漏れ出て、知らぬうちにそろそろと拡がっていくような、無責任で好き勝手な連想が大切にされていたように感じます。
9月29日にやぎ座から数えて「向き合うべきもの」を意味する7番目のかに座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、ちょうど掲句の「蘭の香」のように自身の意識をふわりと広げていくようなつもりで過ごしてみるといいでしょう。
鶴崎燃の『海を渡って』
この写真集のテーマはずばり「移民に世界はどう見えているのか」。日本と満州、ミャンマーと日本など、故郷から異郷へと渡ってきた人々の「かつていた場所」と「今いる場所」を対置させていくことで、隔てられた2つの場所、2つの時間を結びつける目に見えない‟糸”の存在を読者にまざまざと感じさせていきます。
人は皆、縦軸=歴史と未来をつないでいく時間の流れと、横軸=同じ時代を生きる人々によって共有されている空間の広がりが交差する地点に生きていますが、こうした作品を見ていると、地球上でほんの少し座標のずれた地点に生を受けただけで、「これは自分の人生だったかも知れない」という不思議な感慨を少なからず覚えるはず。
中国からの引き揚げ者やミャンマー移民の背後には、大きな時代のうねりが働いていましたが、それは現代日本を生きるあなたにおいてもまったく同じであり、生ある限り彼らと同じように同じ時間の流れの中で自分固有の物語を紡ぎ続けていくのです。
その意味で、今週のやぎ座もまた、まだ自分が知らない未知の地点へと‟糸=意図”を通し、結び付けることで、新たな人生物語の展開をもたらしていくことを心がけていきたいところ。
今週のキーワード
縦軸と横軸の交わり