やぎ座
ろくでなしブルース
不穏さを解き放つ
今週のやぎ座は、「夏雲にいくたび翳るカトラリー」(藤井あかり)という句のごとし。あるいは、説明のつかない衝動や感情の顕在化を促していくような星回り。
ナイフ、フォークなどではなく、あえてそうした食卓用の刃物の総称である「カトラリー」という言葉を選んだことで、何かが変わってしまったように感じられる一句。
どこかのカフェテラスでの景色なのか、それとも自然の中でビニールシートを広げて何気なく食後のひと時を過ごしているのか。いずれにしても、「夏雲」とあるにも関わらず、掲句には日本の夏特有の暑苦しさが微塵も感じられません。
むしろ、静謐な時間の流れのなかで時おり翳る「カテラリー」に、決して表には現われされることのない作者の不穏な衝動や奥底にある負の感情が連想されて、というより、自分の中の何かをそこへ投影して、背筋に冷たいものが走る人もいるのではないでしょうか。
その意味で、掲句はどこかでそうした押し込められた感情や言葉にできない神的不満のようなものの解放を淡々と促していく作品でもあるのかも知れません。
8月8日にいて座から数えて「しがらみ」を意味する8番目のしし座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分自身を深いところで縛っているしがらみと向き合っていくことになるでしょう。
生霊を放つ
何かを書いたり、人を相手に話したりするということは、そこに言葉が介在するかぎり、その人の一番奥の方に巣くっている生霊(いきすだま)を放ってしまうということであり、普段自分でも忘れている生への恐れや、うわべでは上手に隠しているしがらみや不穏さを巷間へ解き放っていくということに他なりません。
したがって、人を傷つけもすれば、みずからも血を流す行為であり、考えれば考えるほどすれすれの振る舞いと思えてきます。しかもそれを何かしら「芸」として売り出すようなあざとい真似をしている者なら、皆すべからく「ろくでなし」と決まっているでしょう。
でも、そんな業さらしな真似をせずにはいられないのも人間の本性であって、どれだけ嫌気が差そうと毒気にまみれようと、いったんそういう行為に加担してしまえば、もはや元には戻れずのめり込むばかりで、それらの営みと共に生死を超えて往くしかないのです。
今週のやぎ座も、普段自分のしでかしていることの恐ろしさとむごさを抱えながら、それでも誰かに向けて何かしらを発信していく自分の姿をよくよく見つめ直してみるといいでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
いきすだま&ろくでなし