やぎ座
通過儀礼の挿入
「劇場」の破壊
今週のやぎ座は、寺山修司の『犬頭の男』という市街劇のごとし。あるいは、日常に畏怖と魅惑を取り戻そうとしていくような星回り。
寺山修司が1975年に制作した『犬頭の男』は、阿佐ヶ谷という街を舞台に、三十時間何かが起こっているという状況演劇の一つなのですが、街のタバコ屋さんやパン屋さん、時計屋さんなどにハガキが届くのです。
そこに書かれているのは「タバコの火を貸してくれませんか」という内容で、数日後にシルクハットに口髭の男が訪ねてくるが、怪しいものではなく、長居して迷惑をかける訳でもないので、できればマッチの火を貸してほしいという、何とも不気味なことが書かれている。しかもハガキは字の切り抜きだったそうです。それで、実際に火を借りに男が訪ねてきて、タバコの火を貸してくれと言う。
要するに、自分の生活空間において、ある期間に本当のことなのか空想なのかよく分からないような状況があちこちで起こるという作品で、そうした状況が平穏な街の日常に裂け目を入れていく。寺山は、そういう作品を通して「劇場」という枠を壊そうとしたのです。
そこでは観客は観客席に座って、舞台で起こっていることから切れ離されてあり、それゆえに、観客席に座ってただ他人事のように傍観しているだけで、何も脅かされないし、終って幕が引けば、またいつもの日常に戻れることが決まっている。それでいいのかと問い直したかったのでしょう。
そして、7月28日にやぎ座から数えて「生きている実感」を意味する2番目のみずがめ座に逆行中の木星が戻っていく今週のあなたもまた、自分の想定外の事態を通じて日常の在り方を問い直していきたいところです。
自分自身への贈与
イニシエーションというのは、自分の中でなんとなく想っているだけでは決して成立することはありません。覚悟をもって自分で自分にそのきっかけを与え、通過する意志を植えつけていくのでなければ、それは成し得ないのです。
「多大なる自己には当然他人など存在しない為、
薬であれ毒であれ、与えることは得ることとなり、
得ることは与えることに因る。
それが循環という理、輪(和)の回り方である。」
(橋龍吾、『銀河飛行』)
例えば新しい服や香水を買うのであれ、これまで行ったことのない街へ行くのであれ、それが自分自身への純粋な贈与である限り、どんなものであれひとつの祈りなのであり、あなたがあなたのまま、大いなる自然の循環に与していくための儀式となっていくはず。
今週のやぎ座はそうした意味での儀式を執り行っていくべく、心して取り組んでみるといいでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
自分が満たされれば、そこから溢れたものが周囲に広がる