やぎ座
くるくるくるくる
関係性も発酵する
今週のやぎ座は、『死の棘』の言葉の羅列のごとし。あるいは、すこし頭がおかしくなっていくような星回り。
島尾敏雄の『死の棘』という小説は、夫の不倫が妻にばれたところから始まるのですが、ただの痴話喧嘩などでは済まず、奥さんはその事実によって精神に異常をきたしてしまい、ひたすらに夫を責めるのです。というか、攻撃する。そして夫はひたすらに耐え忍ぶのみ。言ってしまえばそれだけの小説なんです。
しかも話がすすむにつれて主人公であるはずの夫も頭がおかしくなっていくのですが、病んだ描写や言葉のやりとりも、それが続き過ぎるとそれはそれでおもしろおかしくなってくるから不思議です。
「あなた帰りたいなら帰ってもいいわよ。あたしはもう少し散歩をします」
「そんなことを言わないで引きかえそう。湯ざめしてかぜでもひいたらどうするんだ」
「あら、あなた、あたしのかぜをひくのがそんなに気になるの。あんなに長いあいだちっともかまってくれなかったくせに」
「それはへんな言いがかりですよ。ミホ、忘れないでくれねえ。昼間墓場のそばのところでもう決してハジメないと誓っただろう」
「あたし今ハジメているのじゃありません。ちかったことは忘れませんよ。あたしはうそが大きらいです。今だってあなたをちっとも責めてなんかいないでしょ。ただじぶんがわからなくなったんです。あなたはあたしが好きなのかしら。それがわからないの。ほんとうはきらいなんでしょ、きらいならきらいとはっきりおっしゃってください。蛇のなまごろしのようにされているのはあたしたまらない」
20日にやぎ座から数えて「抜き差しならない関係」を意味する8番目のしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、知らず知らずのうちにヘンな関わりに巻き込まれていくことになるかも知れません。
「性に合う」ということ
よく恋愛や結婚に際して、「価値観が合うか合わないか」という基準が持ち出されますが、そもそも価値観というのは、人生を通じて驚くほどに変わりうるものです。
ただそれよりはるかに厳然として存在するのは、「性に合うか合わないか」であり、これに関しては生涯ほとんど変わりません。「性」というやつは、例えば「嫌いなものが一致するか」という点に顕著に現れ、嫌いなものが決定的にずれている場合は、それは性に合わないのです。
そして、人は「ギョッとする」体験をさせられる相手の近くには、長くいたいと思わない生き物でもあり、逆に他の人ならギョッとするような話をすんなりと受け入れてくれる相手というのもいるものなのです。後者のような相手を見つけたら、それはある意味で腐れ縁になれる相手なのだと改めて知っておくべし。
今週のキーワード
相手に委ねる