やぎ座
散り際の美学
“かたまり”から“かけら”へ
今週のやぎ座は、「冬麗の微塵となりて去らんとす」(相馬遷子)という句のごとし。あるいは、何かが終わりつつあるさまを明るく透き通った目で見つめていくような星回り。
作者は長野生まれの医師で、北信濃の厳しい気候と風土に根ざして暮らす人々の生き死に、沈着なまなざしで詠み続けた人。そして、掲句を詠んだ頃は、自身もまた癌におかされ、近づいてくるみずからの死と対面していました。
しかし、掲句には死を前に恐れや不安に心をかき乱されている様子は微塵もうかがえません。ただ、うららかな冬の晴天の景色の中で、きらきらと乱反射している「微塵」となって私は去ろうとしているというこの句の感慨には、甘い感傷も、人目を惹くような幻想も込められてはいません。
作者はただ目に映ったものを、あるがままに見つめている。ここにはその透徹した認識だけがあり、決して見ることのできない死を確かにその後ろに背負っているような気配を漂わせています。
そして次第にその“目”は大地を離れ、やがて冬空の彼方へと消えていくのでしょう。そこには、人がとりうる散り際の一つの理想形が示されているように思います。
8日にいて座から数えて「アイデンティティ・クライシス」を意味する9番目のおとめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分がもはやこれまでの自分ではなくなりつつあることの自覚を着実に深めていくことになりそうです。
喧噪と小舟
この世の喧噪や、欲望のもつれを散々経験した後、それに嫌気が差して軽蔑的に振る舞ってしまう人はたくさんいますが、今週のやぎ座はそうした俗世間や自らの過去の体験に対して、何かしら違った角度からその意味や豊かさを見出していくことができるはず。
それもこれも、ここまでさまざまな過去を乗り越えてきたことで、静謐さや穏やかさを自分の手で作り出していく術を覚えたおかげ。
どうにもならないことばかりのこの世界で、多少なりとも自分でどうにかできる領域があるんだという自信を持つことは、夢と現(うつつ)のはざまを自在に漂う小舟のような「ささやかな自分の居場所」を見つけていく上でとても大切なことです。
あるいは今週は、そうした「自由」ということにまつわるあれこれを改めて実感していく時なのだと言えるかも知れません。
今週のキーワード
マインドフルネス