やぎ座
休止符を打ち込んでいく
色を思い出す
今週のやぎ座は、「休んだり休まなんだり梅雨工事」(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、ユーモアでもってひょいと力を抜いていくような星回り。
たまたま見かけた梅雨どきの工事現場の風景を詠んだものだろうか。
「休まなんだり」という関西の方言のユーモラスな口調が、どこか緩慢でゆるりとした力のくつろぎを感じさせる。現代社会に生きているとついつい忘れがちになってしまうが、人間の労働というのは十分な休息を前提にときどき発揮されるべきものであり、本来、雨が降ったり湿度が上がれば休むのが当たり前なのだ。
むしろそこに生命としてのリズムが生まれてくる。逆に休息が休息でなくなれば、身体も精神も次第に弾力を失っていき、ケガはするわ感情もなくなるわで、世界はどんどん灰色一色に近づいていく。
絵だって、使える色が一色増えるだけで、そこにはまるっきり別の世界が開けてくるものだ。休むということは、何も生産していないとか、誰かのためになっていないということではなくて、世界にはたくさんの色があることを自分に思い出させる大切な時間なのだとも言える。
12日にやぎ座から数えて「基本のキ」を意味する4番目のおひつじ座で火星に月が重なっていく今週のあなたもまた、「おいおい、こんな当たり前のことを忘れちまってるぞ」と自分にツッコミを入れるくらいのつもりで過ごしてみるといいだろう。
「狂い」の効用
皮肉にもうまくいっている時ほど人はつまづきやすく、思い上がりや傲慢さほど人を狂わせてしまうものはありません。しかし一方でそうした人間やその運命の自然なリズムを狂わせる要因をあえて意図的に用いることで、人類は宗教を生み出してきたのです。
その点について、例えば先史学者ルロア=グーランは『身ぶりと言葉』という本のなかで、次のように述べています。
自然のリズムの破壊、夜明かし、昼夜の逆転、断食、性的禁欲などは感性論よりも宗教の領域を思わせるが、それはただ近代文明においてこの二つがほとんど完全に分離されているからだ
つまりこうした分離の結果、ふつうの感性を持った大多数の人たちは非宗教化されたリズムのなかで平穏な生活を送れている訳ですが、逆に言えば、平穏な生活が行き詰まってきた時こそ、「夜明かし、昼夜の逆転、断食、性的禁欲など」によって人類は昔から狂ったリズムを整えてきた訳です。
今週はあえてそうした「休止符」を日常に打ち込んでいくにはちょうどいいタイミングと言えるでしょう。
今週のキーワード
宗教的儀式としての休止符