やぎ座
世界観をズラす
一か八か
今週のやぎ座は、「一八に雨のふるなり屋根の上」(村上霽月)という句のごとし。すなわち、今までになかった発想に開かれていくような星回り。
一八(イチハツ)はアヤメ科の多年草で、5月から6月にかけてカキツバタに似た白や薄紅色の花を咲かせ、関東や東北地方の農家では大風や火災を防ぐ花とも信じられていたそう。
掲句では、そんな一八の花に雨が降っており、なんとそれが屋根の上に咲いているのだといいます。現代人の感覚ではびっくりしてしまう話ですが、明治時代までは茅葺の屋根も珍しくなかった訳で、「屋根の上」に花が咲いているのはごく日常的な光景だったのでしょう。
しかし、屋根に草花がはえているだけで、とたんに体温が通い、呼吸をしている生きもののように感じられてくるから不思議です。きっと昔の人の「家」というのは、名称こそ同じであっても、現代人のそれとはまったく異質の感覚で捉えられていたのだと思います。
シンボリズムの世界で「家」はしばしば“自我”を表しますが、その意味で掲句は、気密性が高く外部の音や匂い、空気の流れをほぼ遮断できてしまう現代人のこころに、土間や茅葺屋根を通じて野原や大地と地続きであった昔の人の心もちを思い出させてくれているのだとも言えるかも知れません。
5月30日にやぎ座から数えて「啓蒙と高揚」を意味する9番目のおとめ座で、上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、自分がはまり込んでいた常識や経験知、時代性の限界をひょいと一つ乗り越えていけるかどうかが問われていくことでしょう。
これからを占う
あるいは、しばらくの間あなたの中で停止していたものが、今にわかに動き出し、開花しつつあるのだとも言えます。それに当たって、あなたは物の見方や世界観を再起動させていくのに最適なやり方やきっかけを見つけていこうとしているのだとも言えます。
たとえまったく同じ行為をしたとしても、場が変わればまったくの別物になってしまうように、今週のやぎ座は、自分の周囲に広がっているどんな場所、どんな視野から力を借りていくかによって、これからどんな自分になっていくのかを占おうとしているのかも知れません。
ただし、これはただそれなりのお金をかければいい、努力すればいいというものでもなく。それが高級ホテルの一室であれ、ドトールの店内であれ、いい場所とわるい場所、いいアングルとわるいアングルというのは、資本主義の引いた物差しとは無関係に、絶妙に混在していたりするのです。
願わくば、自分なりの「屋根の上」を見つけ、そこに花を咲かせてみてほしいと思います。
今週のキーワード
風景異化