やぎ座
片隅を見つける
静かなる革命
今週のやぎ座は、岡倉天心が『茶の本』において説く茶碗の妙味のごとし。あるいは、まず自分の手元から失われた尊厳を回復していかんとするような星回り。
岡倉天心といえば、『東洋の理想』(1903年)の冒頭を飾る「アジアは一つなり」という有名な一句で知られていますが、この大言壮語の裏にはぬぐいがたい西洋文明への劣等感とナショナリズムがあったことは否定できない事実でしょう。
しかし一方で、彼はその後に書いた『茶の本』(1906年)の中で茶道の本質を「人生という度し難いものの中に、何か可能なものを成就しようとするやさしい試み」にあるとし、また人生の面白みは「茶気」という言葉で言い表されるとし、「よそ目には、このもっともらしい〈空騒ぎ〉が、じつに不思議なことに思われるかもしれぬ。茶碗ひとつに何たる〈大騒ぎ〉(テンペスト)というであろう」と書いています。
岡倉にとって、茶道は広く世界で尊敬を集めている当時唯一のアジア的様式であり、「不思議にも人情は茶碗のうちに東西相合したのである」と感じていたのです。
2月24日(月)にやぎ座から数えて「よみがえり」を意味する二つ先のサインであるうお座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、まず自分のもっとも身近なところにあるものから、大きすぎる野心の裏付けをしていくことがテーマとなっていきそうです。
そっと自分を引き戻す
例えば、松尾芭蕉の紀行文学の傑作である『おくのほそ道』には、大きな栗の木の下で庵をむすび、俗世間を避けるように暮らしている僧・可伸(かしん)という人物のことを思って芭蕉が詠んだ「世の人の見付けぬ花や軒の栗」という句が出てきます。
これなども、ある意味で「茶気」という言葉を想起させるものと言えます。
というのも、栗の花というのはその独特の臭いからむしろ人々から嫌われ、避けられている不人気な花です。けれど、見方を変えれば、そうすることで人々から距離をとって、静かに生きており、芭蕉にとっての可伸の魅力はそこにあった訳です。
私たちの中には、人に自分を認めてもらいたいという欲望が渦巻いており、どうしてもそれに自分がとらわれてしまうところがあります。けれど、栗の木はそれに無関心で、のびのびと自分の花を咲かせている。
今週のやぎ座のテーマもまた、自分を欲望の渦から引き離していくことにあるのだと言えるかも知れません。
今週のキーワード
自意識の渦から引き離す