やぎ座
体験を言葉へ
アガサ・クリスティーの体験記
今週のやぎ座は、アガサ・クリスティーの『さあ、あなたの暮らしぶりを話して』という本のごとし。あるいは、自分が心から大切に思っているものを言葉で掲げ誇っていくような星回り。
「ミステリーの女王」の名をほしいままにし、数々の推理小説の傑作をのこしたアガサ・クリスティーは、実際の人生において二度の結婚を経験しており、一度目の結婚が破綻した後の旅行先で自分よりずっと下の考古学者マックスと出会い恋に落ちました。
「クリスティーのオリエント発掘旅行記」という副題のついたこの自伝的作品は、彼女の二度目の結婚から間もない1934年から38年にかけて参加したシリアでの発掘調査にまつわる冒険と事件にみちた刺激的日常についての記録で、その調査隊のリーダーはもちろんマックスでした。
その内容は発掘調査に関する学術的なものよりも、文化も習慣もことごとく異質な現地の人びとらがもたらす数々の驚きや気付きに満ちており、それを時に辛辣に、あるいはユーモアを交えつつ、するどい観察眼といきいきとした描写で書き綴られたものになっているのです。
「わたしは思い出している―華麗な、縞のあるチューリップのような、あのチャガールの女たち。そして、ふさふさしたひげをヘンナで赤く染めたシーク」(の人たちを)。
やぎ座から数え「気付き」を意味する9番目のおとめ座で上弦の月が形成されていく今週のあなたもまた、自分の愛すべき「暮らしぶり」に改めて目を開き、それを言葉に載せて伝えていくことがテーマとなっていくでしょう。
気付きの契機としての読書
人生を生きているということは、現に生きていない人生を切り捨てているということでもありますが、この「ほとんど無自覚のうちに切り捨てている別の生き方」の存在に気が付くためのきっかけを与えてくれるという点で、読書は「人生」を豊かにする鍵となっていくのではないかと思います。
じゃあこれ、人間相手の会話じゃダメなのかって疑問が当然湧いてくる訳ですが、もちろん似た効果をもたらすこともあるでしょう。
でも、よくよく考えてみると、自分ひとりで始められないという点だけでも、人付き合いは読書に比べて圧倒的に「選択の自由」が制限されていますし、そもそも誰かと会って変わる人というのは、その時点でどこかで既に気付いているんです。
つまり、気付くための準備はできている。
結局、他の誰かを通じてかすかな気付きを確信に変えていくことはできても、気付きそのものは自分自身で得ていくしかないんですよね。
そのことに思い至らない人は、自分を変えようと延々と他人を追いかけ、乗り換えを繰り返していくことになる訳です。
今週はできるだけ自分の中にもう1つの世界を思い浮かべ、それを他の誰かに読まれるための言葉に変えていく時間を作っていきましょう。
今週のキーワード
サナギと飛翔