やぎ座
宇宙的であるということ
野生の手触り
今週のやぎ座は、「洟かんで耳鼻相通ず今朝の秋」(飯田蛇笏)という句のごとし。あるいは、外界と内蔵とを隔てている膜を、限りなく極薄に近づけていくような星回り。
耳と鼻のあいだに冷たい空気が通って、ああ寒くなったなあと秋から冬に抜けてきた自然を感覚する。掲句は驚くほど素直に、正確にそんな今の季節感を感じさせてくれます。
俳句と言うのは、自然と人間とのあいだに通路を作り出そうという言葉の芸術ですが、それを実現できている作品は広く見渡しても決して多くはありません。
ですが飯田蛇笏(いいだだこつ)という人は、それをごく日常的にやってしまえる稀有な人なんです。
それはきっと、彼が若い頃に東京で文化人として成功することを断念して、故郷である甲斐の山中に暮らしながら句を詠んでいったということが大きいのでしょう。
人間中心主義の都会ではなく、人間と自然との中間に繰り広げられる、山の人生。
そこでは平らにならされ、きちんと整理された自然ではなく、突如として切り出された野生のままの自然が、実にぎくしゃくとしたまま躍り出てくる。
舞うように水平的な人生が展開されていくのじゃなしに、跳ぶように垂直的な私というものが浮上してくる。
「上手」な生き方など目指さない。目指せない。
けれど、いびつなままの野生の手触りを伝えてくれる掲句のような言葉のリズムこそが、力強く生きようとしている今のあなたにはちょうどいいのではないかという気がしてきます。
膜を突き抜けて注がれてくるもの
ある種の宇宙感覚というのは、いつだって透明なものだと思います。
それだけに、どこかへ飛んで行ってしまいそうな不安が伴なってきますし、ギリギリの線で地上に足を残してとどまっている限りにおいて、甘やかな郷愁を誘うのでしょう。
けれど、その甘さの膜をときに人は突き抜けてしまう時がある。
「このまま亡くなっちゃってもいい」。それくらいの強さで胸に迫って来るくらいの宇宙線が、地上には現に降り注いでいるのかもしれません。
今週のあなたはそれを受けとろうとするだけにとどまらず、みずから追い求めていくような勢いさえ出てくるはず。
でもそうしなければ開かない通路というものが、この宇宙と人間のあいだにはあるのだと思います。
今週のキーワード
飯田蛇笏