
かに座
不意に馬鹿になる

「なんて馬鹿なことをするんだ」
今週のかに座は、愚かさに関するレッスンのごとし。あるいは、「世界にいながら属さない」ことにもっと慣れていこうとするような星回り。
人間の変成意識状態について取り扱ったトランスパーソナル心理学を日本へ最初期に紹介した人物であり、伝説的なセラピストである吉福伸逸は、遺稿集である『世界の中にありながら世界に属さない』の中で、人間の本来をどう取り戻すことができるか、そのために何を大事にすればいいのか、およそセラピストらしいセラピストが決して言わないようことまで含めて(むしろそれが目玉かもしれない)、じつに率直に語っています。
社会の中で一般の人たちの中にいながらしっかり適応している人が、それを超えたいという妄想を持っていることがすごく多いんですね。そういった人に関して、ぼくは嫌悪感を感じて嫌になるんですよ。嫌になって、「まあ、夢の中に住みたきゃ、どうぞ住んでてください」と思うんだけど、われわれの基本は、どんなことをしても世界内存在であることを否定できないんですね。
吉福が自身のセラピーやワークショップで重視しているのは、クライアント(参加者)が「自己をあけわたす」気持ちになれるかということなのだそうですが、そのためにどうすればいいかというと、自己を破綻させることに他ならないのだと繰り返し述べています。ただ、そういう破綻の気配を感じてセラピーに来る人も、たいていいざとなると抵抗したり、途中でやめてしまったりする。それは自分自身に関してであれ対社会的なものであれ、自分でつくり出した妄想に縛られすぎているからで、「愚かである」という自覚であったり、ある種の諦めが足りないんだと言うんですね。
だから、スーフィーの言葉でいわれる「世界の中にありながら世界に属さない」というふうなとこに行ってほしいんです。超えるんじゃないんですよ、世界にいながら属さないんです。属さないっていうことは縛られないってことなんです。社会からどう思われようと、世間からどう思われようと、そんなことは関係ないんですよ。
7月7日にかに座から数えて「どこでもない場所」を意味する12番目のふたご座に「未来を作り出す力」を司る天王星が移っていく今週のあなたもまた、普通なら「なんて馬鹿なことをするんだ」っていうような愚かなことを、何か一つでもやってみるといいでしょう。
何でもないような顔をして岐路はやってくる
人生には、怪我で片目を失うとか、火事で家を失うといった決定的な転換を求められるような事態に直面していくことが幾度かは起こるものです。
例えばパスカルは、妻子を失って悲嘆の底にある男が、いま自分の賭けた馬がスタートしたというだけで数分間有頂天になっていた様を描き、そこから、人間の悲しみが一見深そうに見えてそのじつ底の浅いものであるとの結論に達しました。
つまり、怪我や事故といった事態は大抵の場合、唐突に、ないし運命的に訪れるがために、じつは案外割り切れやすい悲劇と言えるのかも知れません。そうした場合、苦悩の方向も範囲もはっきりしているがために、打撃は直接的な代わりに単純なものとなるのです。
そしておそらく、人生にはそれよりも目立たず、平穏でなだらかな形をまとって、じわじわと身体性を奪われていくような、はるかに決定的な岐路が伏在しているに違いなく、こちらを自覚なしに突き進む方がはるかに悲劇と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。
今週のかに座は、「自己をあけわたす」ということも、平穏さの覆いに隠されていた思いがけぬ“つまづきの石”に気が付いていくことから始まっていくのだと気が付いていくべし。
かに座の今週のキーワード
真綿で首を締めるように、ゆっくりしずかに迫ってくる悲劇の方へ





