
かに座
霊性のロジック

矛盾の昇華
今週のかに座は、「霊性」という新概念を社会に叩きつけようとした鈴木大拙のごとし。あるいは、これまで積み重ねてきた経験やなんとなく抱いていた仮説や考察を、ひとつの概念に仕立て上げていこうとするような星回り。
禅を世界的に広めたことで知られる鈴木大拙は、太平洋戦争末期の1944年に出版した『日本的霊性』において、当時戦意高揚のため盛んに唱えられていた「日本精神」という迎合的かつ中途半端な言葉に反発し、特定の宗教の教理に縛られず、体験的に把握される人間の宗教的本性として「霊性」という言葉をあえて使いました。
大拙はこの日本的霊性の論理を端的に示せば、「仏の説き給う般若波羅蜜(智慧の完成)というのは、すなわち般若波羅蜜ではない。それで般若波羅蜜と名づけるのである」ということになると述べ、それを公式的に分かりやすく次のように書き記しています。
AはAだというのは、AはAでない、故に、AはAである。
これは肯定が否定で、否定が肯定だということ。つまり、霊性のはたらきというのは、一般社会では鼻で笑われるような論理的矛盾を必ず含んでいて、日常的なコミュニケーションの次元とはまったく異なるものであるということ。
たとえば、Aのところに「光」という言葉を入れてみると「光は闇である(光ではない)、故に、光は光なのだ」となりますし、「女性」を入れれば「女性は男性である(女性ではない)、故に、女性は女性なのだ」となる訳ですが、こういうことを実際に経験されている方は少なくないのではないでしょうか。
ただ、大拙は霊性のはたらきというものを、そうした個人的体験をもって語るのではなく、論理として普遍的に通用するような公式として示すことで、ひとつの強靭な思想にしていこうとしたのです。
その意味で、6月11日に「思想信条」を司る木星が自分自身の星座であるかに座に移っていく今週のあなたもまた、自分がなんとなく抱いてきた問題意識に明確な形を与えていくことがテーマになっていくでしょう。
退化ではなく螺旋
例えば、1998年に出版された宮内勝典の『ぼくは始祖鳥になりたい』という小説があります。これはスプーン曲げで有名になった清田益章をモデルにした超能力者を主人公に、アリゾナの巨大なクレーターを訪ねていくというお話なのですが、そうした物語のディテール以前に、そのタイトルだけでもうある種の思想を表しているように感じます。
始祖鳥というのは恐竜と鳥のあいだをつなぐ古代生物ですが、ここでは自分たち人間が未来に鳥であったり恐竜になったりという変形可能性について暗示されている。つまり、動物になることは退化ではなくて、もっと進化することだという可能性がここで大胆にかつ抒情性をもって示されているのです。
こうした話は、鎌田東二とハナムラチカヒロの対談本『ヒューマンスケールを超えて―わたし・聖地・地球』の中でも詳しく語られているのですが、要はある種の先祖返りをするうちに、既存の在り方とは異なる意識や身体性へと変容していく。それが脱・人間主義的発想の原動力にもなっていくということでもあり、ひいては単純な進化でも退化でもない仕方で現状の在り様を変えていく上での羅針盤ともなっていくのではないでしょうか。
その意味で、今週のかに座もまた、これから先を長い目で見た時に大事にしていくべき価値観や、この地上での在り方そのものの見直しを迫られていくことになるかも知れません。
かに座の今週のキーワード
「人間は古代生物である、故に、人間は人間なのだ」





