
かに座
家は宇宙の外科手術だ

書くことと住むことは似ている
今週のかに座は、「反転した火山」としての家のごとし。あるいは、自分なりの別世界を築き上げ、周囲に幻覚を引き起こしていこうとするような星回り。
わたしたちは書くことを欲するのと同じ理由で、住むことを、家を欲する。
そう書いているのは現代イタリアの哲学者エマヌエーレ・コッチャである(『家の哲学 家空間と幸福』)。これはすなわち、私たちは世界をあるがままに知覚したり、ごく日常的にそれを経験をするだけでは十分とは感じられず、そこから鮮やかな色やかぐわしい匂い、得も言われぬ音、予想外のビジョンをつくり出し、それを既存の世界に書き足そうする。
同様に、どんなにささやかな棲み処であれ、手つかずの自然の住みつくことはできない私たちは、この世界に住むことで世界の在り様やその構造を不可逆的に変化させ、家と環境をはじめとした現実におけるあらゆる連続性を破っていこうとしているのだと。
そして、プライベート空間を獲得するために法外な金額を払おうとする現代の私たちに、コッチャは次のように忠告しつつ、興味深いを持論を展開していく。
わたしたちは差異と孤立を混同し、宇宙的な自律性を、(よい家を所有することへの)社会的で心理学的な差別化への小市民的な欲望へと変様させる。しかし家がもたらす差異は、単なる内と外との対立ではない。たとえそう見えようと、わたしたちは惑わされてはならない。それぞれの家は、これまで世界になかった平方メートルや一分一秒を、世界へと貼り付ける洞穴なのだ。
それは住まうことで、わたしたちが地理的で生態学的な文脈に、環境からは予見も演繹もされえない何かを導くのと同じである。巣密(密とともに作られた蜂の巣)のように、それぞれの家は(環境とは)異なる経験を生み出し、投げかける。家は反転した火山であり、空を大地へ投げかける。宇宙の火山は、天空の溶岩、つまり周囲となんの関係もない空間と時間を地球に放出するのである。
4月18日にかに座から数えて「生活制作」を意味する2番目のしし座へと火星が移っていく今週のあなたもまた、家や住まうことへの発想の転換と実践が少なからずテーマになっていきそうです。
開いた系
たとえば新宿御苑なんかをぶらぶらと歩いていると、葉を茂らせている樹木というのは、ただ目の前に見えているこんもりとした輪郭にとどまっている訳ではなく、目に見える以上に巨大な空間をあたりに占めているということ、そして、そこで莫大なエネルギーを放っているということが分かってきます。
同様に、私たち人間もまた、みずからの生活空間や、住んでいる家、ないし皮膚の内側に閉じられた存在として考えない方がいいでしょう。
それらはたんに目に見える分かりやすい輪郭に過ぎず、私たちが発しているエネルギーはいつも狭い生活空間を、自宅を、体表をはみ出しているのだ、と。
その意味で、幼児が自分の体がどこにもでも移動できるという幻想を抱いたり、人類が地球から飛び立って宇宙空間へ進出する夢を見続けてきたのも、他愛もない幻想などではなく、むしろ「延長の自由」というリアルなのだと言えるかもしれません。
今週のかに座もまた、いつも以上に自分自身を閉じた系としてではなく、開いた系として実感していきやすいでしょう。
かに座の今週のキーワード
むすんでひらいて





