
かに座
「あっ」という仕方で

空飛ぶ絨毯
今週のかに座は、『菜の花や月は東に日は西に』(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、子供の頃に抱いた気持ちにフッと立ち返っていこうとするような星回り。
菜の花の黄色は、たった1つの花を見ているのと、かたまりとして咲いている大きな景として見るのとでは感じがまったく違ってきます。前者は弱弱しく、透明な黄ですが、後者は重く厚く、量感のある絨毯のような黄色であり、掲句の「菜の花」は後者の典型でしょう(行燈の火用に需要のあった江戸時代にはいたるところに菜の花畑があった)。
東の空に月がのぼり始め、その淡く白い光が遠くに見える一方で、西の空は落ちていく太陽で真っ赤に染まっている。その一面の景色が菜の花で埋まっているのです。
中天でかがやく白銀色の月を描くのでなく、あえてこうした日が暮れ切る手前の一瞬で切り取ってみせたのは、月的精神を睨んでのことでしょう。月が「たえず移り変わっていくこと」をその本質とするように、私たちのいのちもまた、絶えず移っていきつつ死に近づいていく。
それはなだらかなカーブを描きながら、自然と自覚を深めていくような移り変わりなのではなく、気付いたときに「あっ」という仕方で迫ってくる、非連続的なあり方なんですね。だからこそ月的精神というのは、地球という1個の遊星に生まれた失望であり、寂しさ、孤立感であると同時に、ときめきであり、落ち着かなさであり、ダンディズムでもある。
太陽的な自己肯定が沈んで、月的な自己否定が冴えわたる、その空隙のような一瞬の天のドラマを、作者は他の誰でもなく菜の花を友として一緒に生きている、というわけです。
3月14日にかに座から数えて「人間関係の原型」を意味する3番目のおとめ座で月食満月(大放出)を迎えていく今週のあなたもまた、そんな作者のように月的精神をぐっと掴んでいきたいところです。
記憶の欠落を埋めていくこと
子ども時代に、大事にしていた宝物や誰かにもらった思い出の品、将来の自分への手紙などを容器に入れて、地中に埋めたことはありませんか?
もし実際にそうした経験はなかったとしても、誰しもが記憶の底にそうした「タイムカプセル」のようなものを持っているもの。
いまあなたは先行きが不透明な状況の中、少しずつ明かりが差してきていることを実感してきているはず。そんなあなたに必要なのは、記憶に沈んだ思いや、忘れていた感情、昔抱いたはずの願望を思い出すこと。それらこそがあなたの「しがらみ」や「コンプレックス」と深い関連がある可能性は少なくないでしょう。
当時見ていたアニメや本をもう一度開いてみたり、よく遊んだ場所を訪れてみるのもいいでしょう。今週のかに座は、うまくいけば自分の中で眠っていたものが目を覚ましてくれるはず。
かに座の今週のキーワード
無意識下の箱をあける





