かに座
奇妙なアマルガム
捨て子感覚と宇宙感覚
今週のかに座は、「みなし子」としての青銅聖闘子たちのごとし。あるいは、心に抱えている宇宙的な孤独感をスーッと深めていこうとするような星回り。
車田正美の『聖闘士星矢(セイントセイヤ)』の主人公ペガサス星矢やその仲間たちは、ある財産の長の支援によって女神アテナの聖闘士(セイント)となるため世界各地に送られ、修行を積み、おのれの内なる「小宇宙(コスモ)」を燃やす超人的な技と戦闘力を身につけ、ついに念願の青銅の聖闘士となって、アテナを殺そうとたくらむ悪の一団に戦いを挑むのである。
宗教学者の鎌田東二は、ここで注意したいのは、星矢をはじめとした青銅聖闘子たちが、みな両親のいない「みなし子」であり、捨て子であったこと。そして、そんな彼らが厳しい修行の末に内なる「小宇宙(コスモ)」に気付き、それを爆発させていったことの2点なのだと指摘した上で、「捨て子感覚や家なき児感覚が宇宙感覚とダイレクトに結びついている」のだと述べています(『翁童のコスモロジー』)。
こうした「捨て子=家なき児=貰い子」という設定は、桃太郎やかぐや姫など昔話や民話などの常套手段ですが、一方で鎌田は現代社会においてそれらはごく普通の人の心にも巣食う宇宙的孤独感へと形を変えており、むしろそうした「宇宙的な闇」を通してしか人間同士の絆の深まりはありえないところまで強まっているのではないかとも示唆しています。
5月26日にかに座から数えて「癒し」を意味する12番目のふたご座に拡大と発展の木星が約12年ぶりに回帰するところから始まった今週のあなたも、おのずと自身の人間関係の欠損や欠如、変態にまつわる物語の深層に分け入っていくことになるでしょう。
よみがえったキューバ・ミュージック
ヴィム・ヴェンダースの映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)の影響で、現在では20世紀半ばにハバナに実在した、この会員制音楽クラブの名も世界的に知られるようになりましたが、実際に彼らが活動していた当時はキューバ国外ではほとんど無名でした。
というのも、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブは一口に社交場といっても、そこに集まってくるのは普段は木工や靴磨き、葉巻作りなど、わずかな賃金労働に身をやつしながら、貧しい暮らしを余儀なくされていた人々だったから。
それでも、彼らは夜になるとそこでおしゃれとラム酒と葉巻、そして音楽とダンスとおしゃべりとを愉しみ、何よりも品格と希望とを決して忘れなかったのだと言います。
結果的には、そんな彼らの音楽を懐かしんだアメリカ人ミュージシャンの録音したミックス・テープがヴィム・ヴェンダース監督の手に渡ったことがきっかけに、ドキュメンタリー映画が撮られ、そこですっかり忘れられた存在だった彼らと共に作り上げたキューバ音楽のアルバムはグラミー賞を受賞し、一転して栄華の中心に躍り出ていくことになったのです。
今週のかに座もまた、そんなクラブで入り浸っていたキューバ人たちのように、こころやからだの奥底で眠っていたエネルギーを交歓させ、混ざりあっていきたいところです。
かに座の今週のキーワード
回復への欲望を膨らませていく