かに座
春の世の余韻
うたげの後
今週のかに座は、『一斉に客の帰りし朧かな』(塩谷康子)という句のごとし。あるいは、「余韻に酔う」楽しみに興じていくような星回り。
「あ、もうこんな時間!」「では、私もそろそろ失礼します」「同じ方向なので、一緒に帰ろうかな…」
一人席を立つと、まるで夢から醒めるかのように、ばたばたと連れだって、みなが「一斉に」帰っていく。玄関で見送り、ドアを閉めて部屋に戻ると、そこには独特の雰囲気がただよっている。
ついさっきまでそこで一緒に笑いあい、声を響かせあっていた人たちの気配や余韻がまだ残っていて、なんだか淋しいような、ほっとするような、何とも言えない気分がこみあげてくる。もてなした側の気配りの疲労感を引きずりつつも、思考はこれから後片付けをしなくちゃとなっているんだけど、心は心地よい春の空気感である「朧(おぼろ)」に溶けて、ぼおっとしながらしばし部屋を見渡している。
夜風にあたって、客たちの残した余韻をふんわりと包み込む「朧」が消え去るまでの、ほんのひとときの時間。しかし、その時間においてこそ、宴の悦びは極まるのかも知れない。もちろん、そうした余韻が残らない集まりだってあるだろうが、そういう会合はわざわざ自宅ではやらないだろう。やはり、自宅、気心の知れた仲での集まり、春おぼろ、この3つがそろってこそ、余韻に酔うことができるのだ。
3月25日にかに座から数えて「ホーム」を意味する4番目のてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、春おぼろを胸の奥に通わせてみるといいだろう。
「ほっこり」いろいろ
ほっとして一息つくだけでなく、さらに心温まる気持ちになったことを「ほっこりした」などと言う。「ほ」も「こ」も「り」もいずれも空気の擦れた音が連続するこの擬音表現は、どうも人に息をとことん吐かせるように出来ており、その点にこそ本質があるように思われる。
つまり、重い荷物を長いこと背負って下ろしたときの安堵感とともに漏れる吐息にしろ、これ以上ないというほど目まぐるしく忙しい一日をやっと終えたときの嘆息にしろ、とにかくそこには重たくなった身をほどいて羽を伸ばすときの解放感があるのだ。
語源に目を移してみると、「ほっこり」に関しては「ぼける」「ぼんやりする」という意味の「惚く」という動詞の名詞形「ほけ」から「ほけあり」という形容動詞が生まれ、それが縮まったものという説もあるが、こちらも真偽はともかく、かわいらしく、現代の若い女性がその意図で使い始めてもおかしくないという気がする。
今週のかに座もまた、自分なりに「ほっこり」という言葉の使い方やコミュニケーションを編み出していきたいところ。
かに座の今週のキーワード
こわばりを解除していく