かに座
言葉のミニマリズム
反転的自己表現術
今週のかに座は、少女モモの立ち振る舞いのごとし。あるいは、「価値の反転」ということを自分自身の態度や表現に結びつけていこうとするような星回り。
自己表現というと、いかに自分を魅力的で立派に見せられるか、たくさんの注目を浴びられるか、自分の価値をつり上げられるか、といった資本主義経済に即した回路で思案しがちな風潮がありますが、ミヒャエル・エンデの名作ファンタジー『モモ』の主人公で、みなしごの少女モモの場合は、「ただ話を聴く」という聴覚的でミニマムなことが才能であり、それが彼女なりの自己表現となっていました。
これは優れたファンタジーの特徴である、「価値の反転」を象徴する物語の核とも言える部分でもあります。例えばこの物語には、資本主義社会が美質としている、忙しく働いていたり、お金持ちになったり、大きな家に住んでおいしいものを食べたりといったことに疑義が呈され、キーマンである時間の賢人のもとへ行く際には急いで行けず、ゆっくりゆっくり亀のように行くのが一番速く会いに行けるという設定が出てきますが、これもモモの人の話にじっと耳を傾けるだけで人々に自信を取り戻させるという不思議な力の発揮の仕方と結びついていくことで、物語全体がまるで生きもののように躍動していくのです。
そして、そんなモモの在り方は、やはり何らかの自己表現を通じて価値を反転させていくことがテーマとなっている今のあなたにも、深い示唆を与えてくれるはず。
2月24日にかに座から数えて「情報の受発信」を意味する3番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、勝つこと、速いこと、人より優位に立つことを無条件に良いものとするのか、それとはまったく異なる条件に基づいた自己表現に取り組んでいくのか、一つの岐路を迎えていくことでしょう。
4分33秒
例えば、ジョン・ケージが1952年に発表した「4分33秒」という無音音楽の演奏などは、そうした「異なる条件に基づいた自己表現」を一つの作品にまでして打ち出した貴重な好例と言えます。
音楽より沈黙を、書籍より空白を。頭の中を反響している無意味な会話や雑音をひとつひとつ消し去り、根気強く沈黙に向きあっていくことで、次第にいつも眠っていたこころの真実が少しずつ、断片的に語られ始める。
その間、周囲の人や家族や友人たちが「何をしているの?」と、ちょっかいをかけてきたり、やたらと話しかけてくるかも知れません。しかし「やって当然」のことや、「言って当たり前」のことを何ら疑問を覚えずやり続け、自動返信メールのように返し続けていくということは、やはり人間の想像力への侮辱に他ならないのです。
その意味で今週のかに座は、いつもなら当然言うべきところをあえて語らず、すぐ行ける距離をあえて遠回りしていくくらいでちょうどいいでしょう。そうしてこそ、沈黙から“ことば”が生まれてくる瞬間に気付くことが出来るはず。
かに座の今週のキーワード
耳を澄ます前に耳掃除