かに座
非合理ゆえに我信ず
気持ちの大波
今週のかに座は、『初日昇る真つすぐ真つ当に昇る』(鈴木牛後)という句のごとし。あるいは、自分がいまだ生きてこの世界にあることを褒め称えていこうとするような星回り。
作者は北海道で酪農業にもいそしむ兼業俳人。掲句は見渡す限りを真っ白に覆いつくす広大な雪原に、真っ赤な初日が昇っていく様子を詠んだものだろう。
「真っすぐに昇る」と言うためには、それなりの時間をかけてその様子を眺めていく必要があるから、凍てつく大気のなかを微動だにせず太陽を凝視し続けたことになる。ここに自分以外の人間は一切出てこない。
境い目などほぼなかった、ただただ真っ白な空間が広がっていた天地を、太陽がモーセの海割りのごとく真っすぐに切り裂いては、きらきらと輝く日の光を自分のもとへと伸ばしてくる。
そうして、私はふたたび太陽とつながっていくのだ。長い長い“魂の暗い夜”の後にはどんなに光が輝くのか!真っすぐにわが身に差し込んでくる日の光と溶け合うなかで、腹の底から湧き上がる生気の昂ぶりを感じていく。これは真の意味での“解放”であり、清められ、リフレッシュされた精神の中で光と生命は歌いだし、しばしの間、気持ちの大波がとめどなく溢れてくる。
1月4日にかに座から数えて「基盤」を意味する4番目のてんびん座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自身も含めたすべての存在への賛歌をじっくり味わっていくだけの時間をしかと確保していきたいところ。
不確定性関係
吉本ばななの『キッチン』という小説に、冷蔵庫を開けた瞬間にフッとおばあさんのことを思って、おばあさんが死んだら困るなと、死んだおばあさんのことが何か自分の中に蘇ってくるというシーンが出てくる。
これは何が起こっているかと言うと、冷蔵庫を開けたら現れるとは限らないものであるはずなのに、そうなっている。要は、因果律に合わないことが起きているのだと言える。
ただ、そのときに、そばで誰かがそれが常識や一般論では決して否定できない真実であることを分かってくれる時がある。「どう思う?」「うん」「そうだよね」「そうでしょ」みたいな。言わば、ハイパー・コミュニケーションが起きて、そこでは合理的に計算されたものをはるかに凌ぐエネルギーが許されてしまう。先の気持ちの大波というのも、そうやってエネルギー保存の法則を突き破るような仕方で引き起こされていく訳だ。
今週のかに座は、そういう物理学における「不確定性関係」というか、恋が芽生える瞬間のような、困惑の悦びを感じていくことができるかも知れない。
かに座の今週のキーワード
「どう思う?」「うん」「そうだよね」「そうでしょ」