かに座
人参と謎の本
たまの休日にすべきこと
今週のかに座は、『ロシア映画みてきて冬のにんじん太し』(古沢太穂)という句のごとし。あるいは、冬の時代をはね返していく為の1つの理想形を見出していくような星回り。
戦後間もない昭和23年の句。自注によれば、これはちょうど1947年につくられたロシア映画で、当時日本で公開されたばかりであった『シベリア物語』を見たことをきっかけに詠まれたものなのだそうです。
ロシア語を学び、労働運動に積極的であった作者の眼には、ロシアは「戦争の痛手をこえて、どんなに大きく新しく建設が進み、人間が成長しているか」を体現している1つの理想国家に映っていたのでしょう。
映画自体はロシアがつくったカラー映画の2作目にあたり、当時進めていた連邦東部への移住政策のプロパガンダ映画で、ミュージカル構成の愉快な恋の物語でした。作者は家に帰りがてら、八百屋で山と積まれた人参を見たのか、それとも台所に立ってふと1本の人参に見入ったのかはわかりませんが、その人参のふとましさに映画に登場した人物の笑顔や歌声の響きを感じ取ったのかもしれません。
ちなみにロシア語で「太い」は「トールスティイ」と言いますが、かの文豪トルストイの姓はこの形容詞を名詞化したものであり、それは差別的な蔑称などではなく、まさに冬の寒さ厳しさを耐えぬいてもたらされる大地の恵みやたくましい生命力の象徴でした。
12月20日にはかに座から数えて「理念」を意味する9番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、身近なところから自身の希望を体現している何かを見出していきたいところです。
Between the Worlds
ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』の終盤、夢の世界「ファンタージエン」での冒険を終えた主人公バスティアンに向かって、謎の本「はてしない物語」の持ち主は、次のように語りかけました。
ファンタージエンに絶対に行けない人間もいる。(……)行けるけれども、そのまま向こうに行ったきりになってしまう人間もいる。それから、ファンタージエンに行って、またもどってくるものもいくらかいるんだな、きみのようにね。そして、そういう人たちが両方の世界をすこやかにするんだ
そう、夢と現実の両方の世界をすこやかにするためにこそ、祈りや儀式は行われるし、映画や小説などの作品もまた作られる。だからこそ、それらは何かぶっとんだ特殊な非日常なんかではなくて、人間が人間らしくあるために、この世界の片隅で粛々と日々実践されていかねばならない「生命線」なのです。
今週のかに座もまた、そんな生命線をどこにどう引いていくのかを改めて考え、そして実践されてみてください。
かに座の今週のキーワード
夢と現実の架け橋としての「生命線」