かに座
ちょうどいい甘みを
甘いと浅い
今週のかに座は、『風邪床にぬくもりにける指輪かな』(中村汀女)という句のごとし、あるいは、ふるまいや表情をさりげなく緩ませていこうとするような星回り。
「ぬくもりにける」という表現は常人からはなかなか出てこないだろうという意味で、実にたくみな言葉の駆使に感心させられる一句。しかしそれでいて、金属的な鋭利さだとかピーンと張り詰めたような緊張感ではなく、それは真逆のこちらが安心し、ホッとさせられるような通俗的な甘さをも感じさせてくれます。
おそらくそれは、風邪で寝込んでいる女性のしどけない姿を連想させる情景選びの妙だけでなく、体温と一体となっている指輪に作者がこめている愛情のあたたかみがほのかに伝わってくるから。思うに、万人に愛され、記憶に残るような句というのは、誰もが経験したことのある日常を題材にしていることや、言葉遣いの巧みさだけでなく、適度な甘さというものが必ず備わっているものなのではないでしょうか。
そして、「甘い」ということは「浅い」ということと決して一緒ではない。薄っぺらい予定調和や独りよがりな感傷とは一線を画した、疲れた体や荒んだ心にしみわたるような甘さこそ、掲句に見られる通俗性の本質であり、女性的なやさしさや情深さの真骨頂でもあるように思います。
11月24日にかに座から数えて「日常的実践」を意味する6番目のいて座へと「情熱」を司る火星が移動していく今週のあなたもまた、仄かな甘さを自身の言説や行動に織り交ぜてみるといいでしょう。
「ほっこり」いろいろ
ほっとして一息つくだけでなく、さらに心温まる気持ちになったことを「ほっこりした」などと言います。さながら「ホッカホカ弁当」のようでもありますが、「ほ」も「こ」も「り」もいずれも空気の擦れた音が連続するこの擬音表現は、どうも人に息をとことん吐かせるように出来ており、その点にこそ本質があるように思われます。
つまり、重い荷物を長いこと背負って下ろしたときの安堵感とともに漏れる吐息にしろ、これ以上のないというほど目まぐるしく忙しい一日をやっと終えたときの嘆息にしろ、とにかくそこには重たくなった身をほどいて羽を伸ばすときの解放感があるのです。
さらに語源に目を移してみると、「火凝る」つまり物を焼くという意味の他動詞の連用名詞形である「ほこり」に景気づけの促音「っ」をつけたのが「ほっこり」だという説があります。これはその「ほこり」の語幹「ほこ」を重ねた「ほこほこ」から「ほかほか」や「ぽかぽか」など南洋の太陽の下を感じさせる温暖な副詞や「日なたぼっこ」という言葉が生まれたことからも確かであると感じさせられます。
ちなみに、「ほっこり」に関しては「ぼける」「ぼんやりする」という意味の「惚く」という動詞の名詞形「ほけ」から「ほけあり」という形容動詞が生まれ、それが縮まったものという説もあるそうですが、こちらも真偽はともかく、かわいらしく、現代の若い女性がその意図で使い始めてもおかしくないという気がします。
今週のかにもまた、自分が生き延びていくための手段としての「ほっこり」という言葉の使い方やコミュニケーションを編み出していくことがテーマとなっていくでしょう。
かに座の今週のキーワード
ほけあり