かに座
天地のあいだに立つ
銀色の春
今週のかに座は、『二月はや天に影してねこやなぎ』(百合山羽公)という句のごとし。あるいは、頭で考えるよりも一足早く訪れる感覚的な変化に開かれていくような星回り。
早くも二月か……。そう思って改めてあたりの風景を見回してみると、いつの間にか猫柳のつぼみも膨らんできて、銀色に輝いている。それを「天に影して」と表現してみせたあたりが絶妙な一句。
日頃から星占いに親しんでいる身としては、こういう言い方はほとんど月や金星など、その潤んだ表情を間近に伺えるような惑星に対して用いる表現であり、その意味で、ここでは「ねこやなぎ」は地上のものというよりはるか天上界にあり、漆黒の宇宙空間で銀色に発光して浮き上がっているようです。
暦の上ではもう春とは言え、まだ農作業などもそこまで忙しくなく、冬でもなく春でもないような、どこか宙ぶらりんな気分になりがちな2月。そんな折、ついつい地上のあちらこちらに春の兆しを待ち望んでしまうヒトのこころにまず最初に応えてくれるのは、遠くから反射して微かにきらめているような猫柳の光だったのかも知れません。
2月6日にかに座から数えて「思考以前の実感」を意味する2番目のしし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、のどかな春の原野で、はたまた休日の散歩道のかたわらで、そんな天上界へ呼応している地上のきらめきを探してみるといいでしょう。
籟の響き
「籟(らい)」とは風がものにあたって発する音のことであり、その響きのこと。古代中国の『荘子』には「天籟」「地籟」「人籟」という表現が出てきますが、これは地上の風穴や楽器の響きがコトバになるということですが、「天籟」に関しては哲学者の井筒俊彦が次のように述べています。
「人間の耳にこそ聞こえないけれども、ある不思議な声が、声ならざる声、音なき声が、虚空を吹きわたり、宇宙を貫流している。この宇宙的な声、あるいは宇宙的コトバのエネルギーは、確かに生き生きと躍動してそこにあるのに、それが人間の耳には聞こえない。」(『言語哲学としての真言』)
籟という声ならざる「声」は、確かに人間の耳には聞こえないけれど、胸には届く。そして胸が痛み、張り裂け、あるいは、心の琴線に触れる、と私たちは言う。その時、私たちは図らずも「天籟」の響きと重なりあって、自他の区別をこえたところにある調和の世界に入っていくのであり、その意味で、掲句の作者もそうした一歩をはからずも踏み出していたのかも知れません。
今週のかに座もまた、そんな本来耳には聞こえないはずの不思議な声とみずからの響きが重なりあっていく瞬間を見逃さないようにしていきましょう。
かに座の今週のキーワード
日常の水平的なコミュニケーションとは異なる垂直的なコミュニケーション