かに座
生き生きとした統合を求めて
古い記憶がうごめきだす
今週のかに座は、『むかし吾を縛りし男の子凌霄花』(中村苑子)という句のごとし。あるいは、遠い過去と現在とが改めて結びついていくような星回り。
「凌霄花」はふつう「のうぜんかずら」と読みますが、ここでは「のうぜんか」。夏にオレンジ色のラッパ状の派手な花を盛んに咲かせますが、掲句ではそのことより、つるを他の木などにからみつかせ、どこまでも執拗に這いのぼる性質が焦点となっています。
「むかし吾(あ)を縛りし男(を)の子」は、たぶんふざけ半分でそうしたのであり、自分もそれが分かっていたからさして抵抗せずにあえて縛られてやったのだと思いますが、いざ縛られてみると、今まで経験したこのない生々しい恐怖感を覚え、すっと肝が冷えたのでしょう。
そのことを、「凌霄花」の咲きぶりを間近で目にした今になって、ふっと思い出した。それはおそらく、縛り縛られた関係が生み出した、思いもよらぬ現実の重みを作者が実感をもって重ね合わせられるようになったことの裏返しでもあるはず。
つまり、人生の途上で経験したことを媒介にして、遠い過去と現在とがふたたび結びついたのであり、長く生きることで賢くなることがあるとすれば、こういう瞬間の積み重ねるなかで、むかしはよく分からなかったことがだんだん鮮明になって整理され、生き生きとしてくるからなのかも知れません。
その意味で、8月12日にかに座から数えて「関係の実感」を意味する8番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、ますます遠い過去が身近になっていくような体験をしていきやすい時期なのだと言えます。
迫りくる悪夢への抵抗
ひとは日々、夢の中でたえずなにものかを見、なにごとかを聞いている訳ですが、こうした夢の素材は、いったいどこから到来するのでしょうか。
例えば、ベルクソンは2つの観点からこの問いに答えています。第一に、ひとは睡眠中でも視覚や聴覚や触覚から逃れられず、傍らで焚火を起こせば夢の中でもそれとなく明るい世界を体験したり、暖かさを感じたり、パチパチと何かが弾ける音を聞いていたりする。
そして次に、こうした感覚のかけらたちを意味づけ、かたちを与え、夢の内容として紡いでいるのは、いったい何によってかということ。いったい何が「未決定な素材にその決定を刻み込むことになる」のか。それは「回想」であると、ベルグソンは述べています。
つまり、夢とうつつは、記憶と回想を通じて混じり合うものなのだ、と。これは例えば、「いのち」の在り様について問い続けたベルグソン哲学の主要な概念である「生の飛躍」とは、いのちが見る夢に他ならず、「開かれた社会」とは、迫りくる悪夢としての現実に対抗するための、もう一つの夢であった、ということではないでしょうか。
今週のかに座もまた、そんな望ましくありうべき夢の創造に加担するべく、過去の現実を異なる角度から捉えなおすような「回想」を積極的に行っていきたいところです。
かに座の今週のキーワード
もう一つの夢を見る