かに座
永遠の相の下で
とぼとぼ歩いている人の背中
今週のかに座は、中世に描かれた西行法師の絵巻のごとし。あるいは、あえて時代に逆行したやり方で何かを伝えていこうとするような星回り。
西行法師と言えば、歴史を通して日本人に最も愛されてきた歌人ですが、彼を描いた絵巻の絵は、ひとりで山に入っていく西行であるとか、雪の中を難渋しながらとぼとぼ歩いていく西行だとか、どれもこれも正面からその姿や顔を描いたものにはほとんどなく、顔はむしろ隠されて、その背中が見えるように描いたものばかりであることに気付きます。
その背中はどこか丸やかで、穏やか。そのせいか、じっと見ていると西行の前方に広がる世界の豊かさまでもがすこしずつ広がって見えてくるような気分に誘われるのです。
それに反して、JRのターミナル駅の人混みや密集した電車内にいるときに、急ぎ足で歩いてくる人や、手にさげたカバンや荷物をぶつけて乗り降りする人などの背中を見てみると、その両肩や背中にずっしりと重いなにかが覆いかぶさっている幻影が浮かび上がってくる。
だからこそ、ゆっくり足を運んでいる人や、とぼとぼ歩いている人を見ると、ああ、背中が歩いている、と思えるのでしょう。静かに笑っているような背中もあれば、いかにも身軽な背中もあるし、時にはどこか寂しそうな背中もある。
同様に、6月7日夜にかに座から数えて「情報発信」を意味する3番目のおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな風に背中で語るようにしてみずからの思いや見ている世界の豊かさを伝えてみるといいかも知れません。
もう1人の<私>としての『ムーンリバー』
ときどき、この世界の現実の何もかもが夢なんじゃないか、そんなふうに思えてくることはないでしょうか。けれど、そんな時に見上げた夜空に浮かぶ月を見ていると、そのあまりの生々しさに打たれて、これだけは間違いなくリアルなんじゃないかと思えてくる。他の何もかもが信じられなくても、これだけは信じてもいいのかも知れないと。
西行はそうした実感を深く湛えていた人でしたが、他に『ムーンリバー』を作詞したジョニー・マーサーもまたそんな感覚を思い浮かべていたはずです。曲の出だしを抜粋すると、
Moon river,wider than a mile(ムーン・リバー、この広く果てしない川よ)
I’m crossing you in style some day(いつの日か、あなたを颯爽と渡ってみせる)
Oh,dream maker ,you heart breaker(ああ夢を見させもすれば、心を砕きもする)
Whereever you’re going I’m going your way(あなたが行くところならどこへでも、私はついて行く)
ここには世の中の基準や、頭で意味づけられる以前のナマの世界に生きているもう1人の<私>として『ムーン・リバー』が登場してきているように思います。
その意味で、今週のかに座もまた、自分にとってのムーン・リバーと静かに、しかし力強く向き合っていけるかがテーマとなっていくのだとも言えるでしょう。
かに座の今週のキーワード
頭で意味づけられる以前のナマの世界に生きているもう1人の<私>