かに座
霊感を出待ちする
怠惰に磨きをかけながら
今週のかに座は、古代の哲学者と現代の哲学者を分かつもののごとし。あるいは、怠惰に磨きをかけながらインスピレーションがやって来るのを待っているような星回り。
現代の哲学者が仕事机で、書斎で哲学するのに対して、古代の哲学者は庭園で、市場で、見知らぬ道ばたで哲学していたという明瞭な違いがあり、そして後者はしばしば多くの時間を寝て過ごしていたために、人びとの目には怠惰に映ったものでした。
ただ、それは霊感というものが水平線の向こう側からやってくるものであることをよく知っていたからであって、彼らはただ寝ていたのではなく、思想を待っていたのだと言えます。その点、読書によって思想を強制し、さまざまな観念を起業家やエンジニア顔負けの勤勉さで努力をもって組織する現代の哲学者たちの姿と比べると、彼らはほとんど熟練の猟師や釣り人のように見えさえもするのではないでしょうか。
いずれにせよ、古代の哲学者たちが自分なりの絶対を発見できたのは、大いに寝椅子やソファーのおかげなのであって、彼らが立って動き回りながらこの世を眺めるのに飽きて、とことん身をかがめたとき、そこでこれまでとは別のペースペクティブを受けとっては、それに耽っていった訳です。
その意味で、4月13日にかに座から「真実の追究」を意味する9番目のうお座で木星と海王星が重なっていく今週のあなたもまた、そんな古代の哲学たちを存分に見習ってみるといいでしょう。
プラトンのアナムネーシス
プラトンの対話篇『メノン』において、哲学者ソクラテスは学問などしたこともない奴隷の少年を相手にして、正方形の面積について図を描きながら問いかけていきます。
はじめ1つの辺を2倍にすると面積も2倍になると信じていた少年も、図を見ることによってそれが間違いであることを認識していきます。その様子について、ソクラテスは「誰も教えないで、ただ尋ねただけであるのに、この子は自分で自分のうちから知識をふたたび取り出して、それによって知識をもつようにな」ったかのようだと表現するのです。
これが「何かを学ぶということはすでに獲得していた知識を想起する(アナムネーシス)ことである」というプラトンの想起の理論であり、さらにその知識はいつ手に入れたものなのかという疑問に対して、ソクラテスの口をかりて「魂は不死であって幾度も生まれてきており、この世のこともあの世のこともすべて見尽くしている。だから、魂が学び終えていないものは何ひとつないのである」と語らせています。そしておそらく、こうした想起のいちばんの発動条件は、何よりもまず「真摯に問うこと」なのではないでしょうか。
今週のかに座もまた、神殿の巫女に問いを投げかけては答えを待つようなつもりで過ごしてみるといいかも知れません。
かに座の今週のキーワード
奴隷の少年の真摯さ