かに座
開けゴマ!
1つの儀式
今週のかに座は、『クレソンを花ごと食べて水の春』(日隈恵里)という句のごとし。あるいは、自分のなかの野性が目覚めていくような星回り。
クレソンは明治時代に日本に持ち込まれ、水辺などで野生化している一方、食用として家庭菜園などでも好んで育てられており、春には白い小さな花を咲かせます。
掲句のように、花も食べられることは食べられるのですが、ピリっとした苦みが非常に強く、おいしくないと感じる人が多いはずです。しかし、この際そんなことはどうでもいいのでしょう。
花も茎も葉っぱも一緒にむしゃむしゃと食べてしまうことで、作者は万物のいのちを育む「春の水」を感じた。それは日常のなかに潜んでいた野生をみずからのなかに取り込んでいくための1つの儀式であり、社会化されすっかり飼い馴らされてしまった“人間”から1つの生命体へと生まれ変わっていくための契機なのだと言えます。
4月9日に自分自身の星座であるかに座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした儀式や契機をみずからに与えてみることで、一気に生命力が賦活していくのを感じることができるかも知れません。
独立自全の一事実
哲学の本は小難しいばかりで、意味のない呪文のようなものだ、と感じる人は多いかも知れません。けれど、「春の水」のような呪文を熱心に唱えたことのある人ならば、その効用は実際の響きにおいて初めて感じられてくるものだということも知っているでしょう。
例えば、特に難解なことで知られる西田幾多郎の『善の研究』もまた、音読してみればただ黙読しただけの時と次第に受け取る印象や実感がどんどん変わってくるのが分かるはず。
直接経験の上においてはただ独立自全の一事実があるのみである、見る主観もなければ見らるる客観もない。あたかも我々が美妙なる音楽に心を奪はれ、物我(ぶつが)相忘れ、天地ただ嚠喨(りゅうりょう)たる一楽声のみなるが如く、これ刹那いわゆる真実在が現前している
概念というより、音の響きの中に、光景が現われるのが感じられてくる時、そこには西田が日本海の砂浜を歩いた際に聞いた松林の風の音や、砂浜に坐って聞く波の音もまた聞こえてくるのではないでしょうか。
同様に、今週のかに座もまた、頭で考えたことではなく、身体が反応したことを通して、自分自身がすっかり移り変わっていくのを実感することになりそうです。
かに座の今週のキーワード
むしゃむしゃという一楽声のみなるが如く