かに座
言葉が先行していく
美しいほら
今週のかに座は、奉仕としての「ほら」。あるいは、かなしくも人間らしい嘘つきであることにとどまっていこうとするような星回り。
現代のテレビにおいて1番面白いのはCM(コマーシャル)であると思うことが多いのですが、それはCMの作り手が、しばしば奇想天外な語り手として知られる「ほら吹き男爵」ことミュンヒハウゼン男爵なみにサービス精神に溢れているからかも知れません。
そして、「ほら」は文字通り“奉仕(サービス)”であることによって、本人が英雄となることを許さず、人間臭い人間にとどめるのだという言い方もできるでしょう。というのも、真実は人間は存在してもしなくてもそこに存在しますが、「ほら」なんてものは人間なしには決して存在しないからです。
ああ、ほらを吹くことはたのしきかな。そしてまた、かなしきかな。虚偽、事実もでたらめという時代にあって、どうせサービスするのなら、いっそ命をかけるに値する美しいほらを吹きたいところ。
18日にかに座から数えて「情報の受発信」を意味する3番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自身がひとつの美しいコマーシャルになったつもりで、存分にほらを吹いてみるといいでしょう。
言葉はもともと空のもの
「ふわりふわり」という重力が消失した浮遊感覚にも通じている「ふわふわ」というオノマトペは、心地よい解放感を感じさせると同時に、根づきもしなければ着地もしていないという根源的な不安をも感じさせるという意味で、「ほら」の本質にも通底しているところがあります。
精神科医の新宮一成は、実はこうした不安定さこそが言葉の根源にあり、人が繰り返し空を飛ぶ夢を見るのも、人が言葉を話すからなのだと言います。
振り返って考えてみれば、かつて嬰児として横になって上を見ていた我々人間にとって、言葉はもともと空のものである。それを獲得することは、横になっているだけの存在に別れを告げて、別の存在になるということである。元の存在はそこに取り残され、言葉が言葉の外の世界を暗示するときに、わずかに姿を現わすだけとなろう。空を飛ぶ夢は、このような根源的な変化の記録なのだ(『夢分析』)
つまり、人は人生の新しいステージへの適合がうまくできず、焦ったり、もがいたり、塞いだりするごとに、かつて赤ん坊から人間になった時にあれほどうまくできたではないか、話せるようになったじゃないかと、夢を通じて自分に言い聞かせているという訳です。
その意味で、「ほらを吹く」という行為もまた、そんな自分が自分以外のものになっていく様を外側から眺めているような、みずからに不安定な新しさを呼び込もうとする本能の現われなのかも知れません。
かに座の今週のキーワード
吹いたほらは根源的な変化の記録