かに座
どこまでも限りなく
翼をさずける
今週のかに座は、翼のはえた魂(たましい)のごとし。あるいは、いつも以上に深く遠くへと思考をずらしていくような星回り。
翼は2つの意味をもちます。第1に、大地の重力からの解放、重苦しい地上の掟からの自由自在。第2に、おのれの欲するところへ翔け行きたいというエロス的願望。世俗に囚われた肉身のままでは至りえぬ遥かな場所へ、天上、彼岸、魂の故郷へと、翼は第2のエロス的願望に傾くにつれ、明確な志向性の表現となり、翼をもって羽ばたかずにはいられなくなるのです。
古来、メソポタミアやシュメールの神話では、死者は飛び去りゆく鳥として描かれていましたが、それは人が死ぬとき、最後の吐息とともに魂が口を通って出てゆくからなのかも知れません。少なくとも、ギリシャ語の「プシュケイン(息を吐く)」は「魂(プシュケー)」と明確な関わりがあり、彼らは人の呼吸しているところのそれによって、重力からの解放を遂げ、エロスを発動させることができたのだと言えます。
同様に、3月3日にかに座から数えて「拡張/膨張」を意味する9番目のうお座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、文字通り息の切れるところまで想いを飛ばしてみるつもりで過ごしてみるといいでしょう。
自己啓発から哲学へ
現代社会はいま自己啓発の大量消費へと向かっていますが、それは裏を返せば、現代人が「自分には何もない」という虚しさを深く抱えていることの証左でしょう。
より高い能力、より大きな名声へと人々を駆り立てていく自己啓発の言葉は、ほぼ例外なく、より深く自分自身を探っていくことを奨励しますが、社会の流動性がこれだけ高まり、ますます生き残り競争が激化している中でそうしたダイブを促せば、自分に確かな価値や強みを見出すというより、むしろいかに自分が矮小でつまらない人間であるかということを痛感することの方が多いはず。
そもそも自己啓発は、それを構築するロジックを「信じる」ことを人に要請しますが、「自分には何もない」ことにうすうす気付いている人ほど、まともに考えることを放棄して信じ込もうとするのではないでしょうか。その方が、自らの価値や他者との繋がりを実感していくのに「役立つ」からです。
こうした不安と虚しさは、働き方がより曖昧になり、AIが本格的に人間から仕事を奪っていくようになる近い将来へ向け、ますます深く大きなものになっていきます。そして、そこから抜け出していくための鍵は、結局「自分こそが正しい」という思い込みを否定し、自分の外側に広がる真理に目を開いて、哲学していくことにあるのではないでしょうか。
その意味で、先の「天翔ける魂」とは、哲学することのイメージ像にほかならず、今週のかに座はどれだけそれをこの地上において実践できるかどうかがテーマとなっていくはずです。
かに座の今週のキーワード
「自分こそが正しい」の逆張りからのDEPARTURES