かに座
闇の感覚
自分の想像を超えた何かがそこにあるということ
今週のかに座は、「大年(おおどし)の何に驚く夜啼鶏(よなきどり)」(佐藤春夫)という句のごとし。あるいは、想定の枠そのものが半強制的に広げられていくような星回り。
「大年(おおどし)」とは1年の最後の日、ないしその夜のこと。新年を迎える準備はあらかた済ませ、あとは心静かに過ごしたいところ。ところが、そのタイミングで庭で飼っている鶏がにわかに鳴きだした。いったい何に驚いているのだろう、というのが句の大意。
狐か貂あたりが、飢えて襲いにきたのかもしれないと、鶏小屋を見に庭に出てみたものの、懐中電灯で照らしても何事もなかったかのように静まり返っているばかり。老いてぼけてきた鶏が悪い夢でも見たのか、それとも、いずれでもない自分の想像を超えた何かがそこで起きていたのか。
作者は明治生まれの文豪ですが、ひとつ分かっているのは、当時の庭というのは現代の住宅街のようなこじんまりした庭ではなく、山野へと直接続く鬱蒼とした場所でもおり、そこに息づく闇というのは現代人の想像以上に深かったのだということ。
12月29日に拡大と発展の星である木星が、かに座から数えて「精神の拡張」を意味する9番目のうお座へと移っていく今週のあなたもまた、自分の中にもそんな「夜啼鳥」をもったつもりで、みずからの想像の限界が破られる余地を残しておきたいところです。
業病と言葉の冴え
前世の報いか、それが自分というどうしようもない存在の証しなのか、いずれにせよ、なぜ抱え込んでしまったのか誰にも上手く説明できず、自分でもいまだ納得できないような厄介な事体を「業病」などと言ったりします。
それは逃れようとしても逃れられないものを言い表した言葉でもある訳ですが、ただ人から人間性やその複雑さを奪っていく形で働くだけでなく、むしろ後になって考えてみると、その複雑さや奥深さが増していくように働くことの方が多いのではないでしょうか。
例えば、小説を本業としていた掲句の作者にとっても、俳句を詠むという行為は、何よりも純粋に己が「業病」と親しみ、受け入れていくための営みの中心にあったのだと思います。いくら小説が書けなくなっても、句を詠むことはやめられなかったし、だからこそ年々句が深まっていったのでしょう。
そう思うと、言葉はナイフのように人の心に突き刺さる凶器にもなると同時に、やはり「薬」に他ならない。そんなことをきちんと自分の身で実感・実践していくことは、今のかに座のあなたにも必要なことなのだと感じます。
かに座の今週のキーワード
どうしようもない存在の証し