かに座
風のように吹き抜けていく
無常ということ
今週のかに座は、「追ひぬきし人のふりむく枯野かな」(山尾玉藻)という句のごとし。あるいは、「無常」ということを語らずして語っていくような星回り。
枯野をいく私を、追い越し、振り返った人がいたそう。それはどんな顔だったのでしょうか。
もし赤の他人であれば、わざわざ振り返ったりしなかったはずです。それに、枯野にそこまでの人通りがあるとも思えません。そう考えるとおそらく、振り返ったその顔とは、私自身に他ならなかったのではないでしょうか。
つげ義春の漫画に出てきそうな、いかにもうらぶれた枯野を行く私は、きっとどこかに戸惑いを宿した、自信のない貌をしているか、すべてを捨て去ってしまった者特有の、あっさりとした淡白な表情を浮かべていたに違いありません。
そのような私とは、ただの抜け殻にすぎず、そこでは時だけが移ろっていくばかり。
27日にかに座から数えて「移動と変遷」を意味する3番目のおとめ座で下弦の月(気付きと解放)を迎えていく今週のあなたもまた、そうしたある種の「脱皮」を遂げていくことになるかも知れません。
石川逸子「風」
遠くのできごとに/人はやさしい
(おれはそのことを知っている/吹いていった風)
近くのできごとに/人はだまりこむ
(おれはそのことを知っている/吹いていった風)
遠くのできごとに/人はうつくしく怒る
(おれはそのことを知っている/吹いていった風)
近くのできごとに/人は新聞紙と同じ声をあげる
(おれはそのことを知っている/吹いていった風)
これはほんの冒頭ですが、そよ風のようにやさしく書かれた内容に中に、怖いものを含んでいます。地上をそうそうとさすらっていく風(「おれ」)」は、何も言わない代わりに人間たちの本当のところを実によく知っているのだと言うのです。
確かに正義感というものを自分の身近なところで実際に貫くことは難しいし、大抵の人は変な巻き込まれ方をされたくないと、素知らぬていで知らんぷりを決め込むか、そもそも気付かないふりをするかがほとんど。
今週のかに座もまた、自分の内側にもうこれ以上持ち合わせていたくないものがあれば、それとなくそれをあぶり出し、そっと吹き消していきたいところです。
かに座の今週のキーワード
無情を無常する