かに座
共同体的制作へ
こちらは8月9日週の占いです。8月16日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
座の伝統
今週のかに座は、日本文学における「座」の働きのごとし。あるいは、滅びや喪失の感覚を通じて新たな文化やその萌芽をつくり出していこうとするような星回り。
一定の土地に集団で定住し、生活圏を自給自足で回るようにしてきた農耕社会を長らく続けてきた日本では、その文化形成においても、和歌における贈答歌や歌合わせなどに顕著に見られるように、創作と享受とが同じ場において営まれ、作者と読者が混然一体となった共同体単位(「座」)で一連の作品を生み出すという伝統がありました。
例えば現存する日本最古の歌集である『万葉集』。それは和歌が、農耕生活の祭りの場における集団的願望の表現行為として発生して以来、民謡的なものをバックに、個と集団とが一体化してかたち、ないし集団における唱和のかたちをとって展開を重ねてきたものが結実した古代的達成のピークに位置づけることができるでしょう。
そしてその背景には、壮絶な内乱によって大量の敗者や変死者が発生し、その怨念が道という道に溢れているという、凄まじい「滅び」や「喪失」の現実、すなわち「座の異常」があったのです。
かに座から数えて「反動」を意味する2番目のしし座で8月8月夜に新月が形成されたところから始まる今週のあなたもまた、誰かと心を通わせながら共に一つの作品、一つの文化の形成に参与していくつもりで過ごしてみるべし。
「ご先祖さまになるんだ」
柳田國男の『先祖の話』には、自分からご先祖様になるんだと言っている男が出てきます。その人は、はんてんを重ねて着て、ゴム長靴を履いている白髪の老人で、もとは大工さんをしていたのだと言います。
兵隊として戦争にも行き、それから結婚して子供を育て、さらに孫もでき、既に自分の墓まである。それで、そのうち自分もご先祖様になるんだと言っているという話なんです。
こういう人は、もう所属する会社や職業や、過去の実績、持てる財産なんかはもう自分のアイデンティティを支えていません。自分を支えているのはご先祖様であって、自分もその一員になるんだということがアイデンティティとなっている。これは強いですよ。
だって突然クビになろうが、天涯孤独になろうが、日本が国家不渡りになろうが、ご先祖さまを消すことはできませんし、ゆえにこの人のアイデンティティが揺らぐこともないのです。柳田はそれにすごく感動しているのですが、それは彼こそ近代化の過程で失われ、また見えにくくなっていった日本人としてのアイデンティティやその精神的伝統を求め続けた人だったからでしょう。
その意味で、今週のかに座もまた、自分のアイデンティティのルーツがどこにあるのか、そしてそれをどう次代に繋いでいくか、といった問いかけがいつも以上に胸に去来しやすいタイミングと言えそうです。
かに座の今週のキーワード
座の異常を鎮めること