かに座
唸れ生命賛歌
いのちを革める
今週のかに座は、単細胞生物の世代交替のごとし。あるいは、みずからに打ち寄せる運命の波のもう一つ奥へと分け入っていくような星回り。
すべての生命現象には“波”がある。山があれば谷があり、谷があれば山がありといったように、両者はなだらかに移行しながら交替していき、吸収・増殖と排泄・分化の双極的営みによってたえず自己更新を行っていく――。
食と性に代表されるような、こうしたいのちの波が作り出す拍動を「宇宙交響」と呼び、これより根の深い生命記憶はないと述べたのは、解剖学者の三木成夫でした。
三木によれば、高等動物などの多細胞生物の場合、たがいに相手を見出して卵と精子の結合によって行われる性の営みは、単細胞生物の場合は二つの個体のあいだで核物質の一部の交換という形で行われるのだそう。
すなわち、比較的大型の雌核と小型の雄核の両者を備えた同士で、後者の雄核のほうが交換要因となって、ふたたび離れることで、単細胞生物のいのちは革まるのです。
20日にかに座から数えて「本能的な働き」を意味する2番目のしし座で、上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、どこかでそうした原始的な本能に従いつつ、みずからを革めていくべし。
「孤悲(こひ)」としての恋の感覚
先進国では唯一、若年層の死因の第一位が自死となってしまっている日本では、生を最後までまっとうすることなくこの世を去っていく若者たちに関するニュースに触れることはもはや珍しくありませんが、じつは万葉集を眺めていても異常死者に対する哀悼を歌った「挽歌(ばんか)」が非常に多いことに気付きます。
刑死や変死、自殺、路上で病気や飢え、疲労などで倒れての突然死、事故死など。改めて異常死の問題が時代を超え、地域を超えて我が国で発生し続けてきたということを思い知らされる一方で、現代ではそれら異常死に対する不安と恐れの感覚が乾ききったまま散り散りに断片化しており、万葉集が作られたはるか古代のように儀礼として挽歌を制作し、彼らを鎮魂せんとする情熱が明らかに後退してしまっているようにも思います。
特に、万葉集では恋人やつれあい同士で詠まれた「相聞歌(そうもんか)」が、挽歌において極まるということがしばしばあり、孤(ひと)り悲しむ追悼の場面において、胸乳(むなぢ)を突き破るような抒情が悲傷へと収斂していく精神の在り様を紡いでいくことこそが、彼らにとって最大の慰霊に他ならなかったのです。
ひるがえって今のあなたには、そうした悲傷の心情や喪失感を抱きうる対象はあるでしょうか。あるいは、あなた自身がそうした対象となってしまう可能性はあるでしょうか。その意味で、今週のかに座は、ともすると散り散りに乱れがちな魂をそっと手元に引き寄せていくことがテーマとなっていきそうです。
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