かに座
問い返す勇気
考える人の風景
今週のかに座は、「春ひとり槍投げて槍に歩み寄る」(能村登四郎)という句のごとし。あるいは、みずからのアトモスフィアを溶かしていくような星回り。
春のうららかな日に、たったりひとり槍投げの練習をしている。ただそれだけのことを詠んだ句ですが、槍を投げては拾い、投げては拾うそのうしろ姿は、どこか胸を打つものがあります。
それにしても、数あるスポーツの中でもどうしてよりによって「槍投げ」などという孤独でストイックな競技を選んだのでしょうか。
おそらく、本人もどこかでそれを不思議に思っているのでしょう。その証拠に「槍投げて槍に」という字余りにやり切れない倦怠感が滲み出ている。
ただ、そうした倦怠感も含めた作中主体全体を「春」という季節が包み込んでいるようにも感じられます。
29日にかに座から数えて「心の支え」を意味する4番目のてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、みずからの遣る瀬無さをおおらかに包んでくれる何かに気が付いていくことでしょう。
希望の器官としての記憶
槍投げの練習風景は、どこか自問し続ける人間の苦悩を思わせるところがあります。
一般に、過去を変えることはできないと考えられています。してしまったことは仕方ない、取返しはつかないが、後悔しても何も変わらないと。ただ、そうであるとしたら、真面目な人であるほど何度も心を針で刺されるように過去に苦しめられ続けることになる。
ただ、記憶は果たして人間を苦渋に苛む神さまからの残酷な贈り物なのでしょうか。過去と未来は結託して現在を育てますが、もし過去が変えられるとしたら、記憶というものも希望の器官としての役割を担っていると言えるのではないでしょうか。
例えば、過去の友人の不可解な行動が、後に起きた両親との絶縁と結びついたとき、過去はその相貌を改め、決定的に変わっていきます。つまり、過去の出来事は未来との関係において、同じ出来事として存在し続ける訳ではなく、両者を結びつける意図や物語が立ち現れたとき、その姿をあらためるのです。
とはいえ、一方で私たちは未来と関わることがとても苦手です。なぜか。それは、過去の苦しみに対して「なぜ?」と問うことなく、都合よく忘れ去ってしまおうとするから。
その意味で、今週のいて座は、未来に視点を置きつつ過去や進行形の現在に「なぜ?」と理由を問えるだけの勇気を奮い立たせていくことがテーマとなっていくことでしょう。
今週のキーワード
槍に歩み寄る