かに座
複雑化と単純化のはざまで
ルーティンをあえて崩す
今週のかに座は、ルーティンの枠にはまらないウンベルト・エーコのよう。あるいは、決まったルールをなくすための工夫をコツコツ重ねていくような星回り。
最初の小説であり、後に映画化もされた『薔薇の名前』を48歳で出版したウンベルト・エーコは決まった執筆のルーティンはないのだと言い、2008年のインタビューでこう答えています。
「私は予定どおりに行動することができない。朝七時から夜中の三時まで、途中でサンドイッチを食べるだけで書き続けることもある。かと思うと、まったく書く必要を感じないこともあるんだ」
考えてみれば、何かしら自分なりの決まったルーティンを確立するべきという思考の枠にとらわれることそのものが、かえって創造的な仕事の邪魔になってしまうことだってあるでしょう。とはいえ、彼は次のようにも答えていました。
「今朝、きみは呼び鈴を鳴らしたけど、そのあとエレベータを待たなくちゃいけなかっただろ。だから、きみが到着するまで何秒かあった。私はその何秒かのあいだ、きみを待ちながら、いま書いている新しい作品のことを考えていた。私はトイレでも電車のなかでも仕事ができる。泳いでいるときは、いろいろできるよ。とくに海で泳いでいるときは。風呂にはいっているときは、それほどでもないけど、やっぱり創作活動はできる」
15日にかに座から数えて「仕事の流儀」を意味する6番目のいて座で今年最後の新月を迎えていくあなたもまた、こうでなければいけないというルーティンへの囚われを崩していきたいところです。
複雑であればいい訳ではない
ただ一方で、複雑なものが単純化されていくのは、生命が維持されていくプロセスにおいて不可避な事態でもあります。
例えば生物学者の大野乾はその著書において、進化のことを「一創造百盗作」として表現していますが、これは生物だけでなく言語やその表現やアートなどにおいても、ある程度同じことが言えるように思います。
つまり、ある段階で新しいシステムが成立する際、それが崩壊せずになんとか維持され続けるための最低限の複雑さというものがあり、そのあとはむしろそれを安定化する方向に向かい、複雑さは増加しないでいるのではないかとも考えられるのです。
ただし、それは細胞のレベルで考えると、老化やがん化の兆しであるとも言えるでしょう。
その意味で今週は、自身の日常生活においてどこまでが不可避なプロセスや決まり事で、どこからはケアや治療が可能なのかを見極める目をきちんと持っていくといいでしょう。
今週のキーワード
ちょうどいい塩梅を求めて