かに座
メイク・ユートピア
水木さんに倣え
今週のかに座は、『水木しげるのラバウル戦記』のごとし。あるいは、自分がまっとうでいられるユートピアを恬淡と見定めていくような星回り。
この本は若かりし頃の水木しげるさんの過酷な戦争体験記であると同時に、戦地なのに読むと行きたくなるという意味では優れた紀行文とも言える不思議な一冊。
派兵先で上官にひっぱたかれてばかりのダメダメ兵士だった水木さんですが、なぜか原住民たちには好待遇を受けて友情を育んでいきます。それでも、敵の急襲で片腕を失ったり、マラリアにかかって死にかかっていたりするはずなのに、すごくあっけらかんとしていて、そのあまりの呑気さや楽天ぶりが読んでいるとおかしくてたまらない。
けれど、兵として空気が読めずルールにも無頓着でおかしな奴だと思われていた水木さんが、ただ一人まっとうな人間であることを、きっと原住民は肌で感じ取っていたのではないでしょうか。
暴力がどこまでも連鎖していく戦地という地獄の真っ只中で、水木さんは自分を理解し、受け入れてくれた土人たち(敬意を込めて彼らをそう呼んだ)と牧歌的な日々を過ごし、戦争が終わって船で島を離れる時も、やっと帰れる喜びでみなが泣いている中、ひとり本気で原住民たちと別れることが悲しくて泣いていたと言います。
22日にかに座から数えて「非日常」を意味する9番目のうお座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、日常がすでに非日常化している現在の社会のような状況下で、誰とどんな状況でいる時に最も「まっとう」な自分でいられるのか、改めて実感していくことになるはず。
ビョーキも個性
例えば現代人は心やからだを病むと、それをみんなでよってたかって“治療”しようとする。それは社会や周囲から自己管理ができていないダメな奴という烙印を押されるからかも知れないし、そもそも「病む」ということがあってはならないことだと思っているからなのかも知れない。
けれど、病むということもまた生命を繋いでいくための一つの手段であり、いわば身体性に基づいた「個性の発揮」なんです。そのことに理解を深めていくためには、身体的に「自己」を規定しているのは免疫系であって、脳ではないという事実を改めて認識していくといいでしょう。
現代人はふだん「意識」や「自我」が自分を支配し、そこで自らの行動様式や生き方を決定していると思いがちですが、脳みそなんてものはもう一つの自己を規定する免疫系によっていともたやすく排除されてしまうもの。というより、昔から頭では大丈夫だと思っていても、身体が拒絶反応を示す時に、それを「病い」と呼んできました。
今週のかに座は、個性を発揮するということは新たに自己を創り出すということでもあり、また病いを得るということは自分という全体性を保つことでもあるのだと、よくよく自分に言い聞かせていくべし。
今週のキーワード
世間に自分をあわせない