かに座
生命燃焼
或る辞世の句
今週のかに座は、リルケの墓碑銘のごとし。あるいは、何か純粋で汚れなきものに触れることで少なからず生まれ変わっていこうとするような星回り。
5月はカトリック歴で「聖母月」といい、さらに生命のおおもとキリストの無原罪の宿りを象徴する聖母マリアは「奇(くす)しき薔薇の花」あるいは「棘なき薔薇の花」という比喩でも知られています。
そして、西洋においてもっとも薔薇を愛した詩人として、生涯にわたって繰り返し薔薇の詩を書いた人物がリルケでした。彼は館の庭で薔薇をきろうとして指に棘が刺さったことが原因で急性白血病にかかり51歳の若さで亡くなったとされており、墓碑銘には前もって自ら選んだ次のような詩行が刻まれています。
「薔薇 おお 純粋な矛盾 よろこびよ
このようにおびただしい瞼(まぶた)の奥で
なにびとの眠りでもないという」
この短い詩は、俳句への尊敬を降りに触れて表明していたリルケが、俳句のつもりで書いたという説がありますが、その意味でまさに彼の辞世の句でもあったのかも知れません。
また日本の歳時記には梅や桃、桜や梨や林檎など、バラ科の花にあやかった言葉に満ち溢れていますが、言うなればそれらすべてが膨大な薔薇賛歌なのだとも言えます。
7日にかに座から数えて「生命力の爆発と開花」を意味する5番目のさそり座で、満月が起きていく今週のあなたもまた、身体的・精神的・社会的にまいってしまいがちな現在のような状況下でこそ、自身の内奥から満ち溢れてくるものに存分に感じ入っていきたいところ。
終わりの想像
いい映画の条件とは一体何でしょうか?
監督の世界観、俳優の演技力、脚本の出来、映像技術の高さ、サントラの充実ぶりなど、いろいろな要素があるでしょう。しかし、また見たいと思わせる映画に共通しているのは、決まって終わり方の素晴らしさに他なりません。
いくら展開が愉快なものであろうと、それが延々と続けば冗長になってしまう。せっかくの感動的な愛のストーリーも終わり方を間違えれば途端に白けてしまう。物語には終わりがあり、まだ終わってほしくない、続いて欲しいと思っているからこそ、その前の一コマ一コマがまるで薔薇の花びらのように輝いて見えてくるのです。
自殺した文豪・芥川龍之介は「君は自然の美しいのを愛し、しかも自殺しようとする僕の矛盾を笑ふであらう。けれども自然の美しいのは、僕の最期の目に映るからである」と『或る旧友へ送る手紙』で書いていましたが、今週は関わる相手との別れをそっと頭の片隅で思い描きつつ、目下のやり取りを存分に楽しんでいくといいでしょう。
今週のキーワード
薔薇地獄