かに座
縁の起こる時を見出す
鈴木六林男と佐藤鬼房
今週のかに座は、「会ひ別る占領都市の夜の霰(あられ)」(鈴木六林男)という句のごとし。あるいは、自分にとって本当に必要な縁を見極めていくような星回り。
戦時中に中国大陸に出征していた作者は、現地で自分が俳誌に載せた作品に共鳴したという同い年の男から手紙を受け取った以降、頻繁に手紙をやり取りするようになります。そして交流が始まった年の冬、戦場へ赴く途中でたまたま文通相手のいる南京の近くに停泊した作者は、思いつきで部隊を抜け出し、相手のもとへ訪れるのです。出迎えた側の感激はどれほどだったのでしょう。
そもそもどうやって相手の所在地を探し当てたのか想像もつきませんが、この機会に会わなかったら生きては二度と会えないかもしれないという強い思いと大胆な行動力が可能にさせた決死の試みでした。
掲句は、そのつかの間の邂逅のあと、相手と別れてひとり舞台に戻るべく特急列車に乗ったときの感慨であり、「占領都市」という厳しい状況下で噛みしめることのできた喜びと、これから先に訪れるであろう現実の過酷さとの対比が静かに、しかし熱く歌い上げられています。
当時、二人は22歳。いずれも戦争を生き延び、戦後はともに社会性俳句の代表的作家として活躍していきました。
15日にかに座から数えて「対等な友」を意味する7番目のやぎ座で、下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、人の縁のありがたみがいつも以上に身に沁みて感じられそうです。
起をもたらすべき時を知る
「合縁奇縁」という言葉がありますが、出会いや人との縁というものは実に不思議なもの。しかし「縁」などと言うと、さも人知を超えた力が働いてすべてのお膳立てが整えられているように思い込みがちですが、必ずしもそうではありません。
すべての縁が「事」を起こすわけではなく、「事」の起こり方は「心」の運動に大きく左右されていくのです。それについて南方熊楠という人は、「心のとめよう、体のふれよう」で事は起こるのだ、と言いました。つまり人間はさまざまな縁の連鎖や分離、あるいは結合にただ翻弄されるだけではない。縁にみずから働きかけることで、おのずから「起」をもたらすことも出来るのだと。
縁に働きかけるべき「時」を見極めるためにも、まずは絶え間なくあちらこちらをさまよいがちな心をしっかりとめて、若き日の鈴木六林男のように、遠く離れた相手の所在やそこへ至る道筋を見据えていきましょう。
今週のキーワード
仲間≠友