かに座
象牙と臓腑
月光幻視
今週のかに座は、「月光に病衣を替ふる象牙の身」(三好潤子)という句のごとし。あるいは、静けさを背景になまなましい渇望を抱いていくような星回り。
これは意図的に「対象と一体化」しているのではなく、なにものかが自分に「のりうつる」わが身の憑物的変身について詠んでいる一句なのだと言えるでしょう。
作者は生涯にわたって多病の人であり、つねに死を傍らに意識して生きていた人でもありましたが、あるいはそれが月の光を受けボーっと白く浮かび上がるかのような「象牙の身」として幻視されたのかも知れません。
大変な風流人でもあった作者の目では、そこも当然含んでいたのではないかと思いますし、その上で、確信犯的に自分を「象牙の身」になぞらえた訳で、そこには病身とは裏腹のなまなましい情の氾濫が起きていました。
11日(土)にかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、どこか自身の身に力強い何かがみなぎっていくのを感じていくことができるはずです。
やわらかな仏の光
現代は、いわば「死にがい喪失の時代」と言えます。
過去のある時代には、おおやけに認められた「大義」というものがあり、たとえそれが誰かにねつ造されたまやかしの死に甲斐であったとしても、「喜んで死ぬ」ということがありましたし、それは同時に、そういう風に生きるべしという倫理観でもあったのです。
しかし、今日においてはそうした倫理観は失われました。
この世にある限り、果てしなく業を重ね、救いのない世界を生きていかねばならないのです。それどころか、業によって発生する因果応報のおよぶ先は、あの世においても次の生まれ変わり先でも未来永劫、果てしなく続いていく。
それが、あなたがこの世に生まれてきたということであり、苦界を生きるということの恐ろしさでもあります。
それでも、おのれが人間であることの謎、そのおぞましさを日々汲みとり、全身の毛穴から思い知っていくその先にこそ、やわらかな仏の光のようなものが差してくるのではないか。
今週のあなたは、そんな命宿すものの凄絶とひとかけらの救いのようなものを、臓腑を通して直接掴んでいくことになるでしょう。
今週のキーワード
人間であることの謎