かに座
因縁をかき混ぜる
理屈では決して片付かない何か
今週のかに座は、『死の棘』の狂った妻と夫のごとし。すなわち、命がけで因縁の渦をかき回していくような星回り。
文庫本で約620ページもあるこの小説は、そのほとんどが、不倫がばれた夫がひたすら妻へ謝る、そんな夫をひたすら妻が責め苛む、そしてまた夫が罪の贖いをする、というエンドレスの繰り返しによって成り立っています。
たとえば二人が病院に行って、精神を病んだ人たちを見たときも、妻は夫の耳元でこう囁くのです。
「あたしがキチガイになったら、あなたあんなふうに介抱してくれる?」
しかも、どんどんヒートアップして夫もだんだんおかしくなっていく。それでも別れない。そこに夫婦というものの因縁と言おうか、深淵と言おうか、とにかく理屈や理想では決して片付けられない‟何か”が在るのでしょう。
そう考えてみると、不倫というのも結局そうした何かを確認し、その深みにはまっていくためのきっかけに過ぎなかったのではないかとさえ思えてきます。
2019年末から2020年にかけて、12年に一度の根底からの転換期を迎えているかに座にとっては、あるいはちょっとやり過ぎなくらいに‟何か”に手をツッコんで、かき回していくのでちょうどいいのかも知れません。
或る夫婦の会話
「あなた帰りたいなら帰ってもいいわよ。あたしはもう少し散歩をします。」
「そんなことを言わないで引きかえそう。湯冷めして風邪でもひいたらどうするんだ」
「あら、あなた、あたしの風邪をひくのがそんなに気になるの。あんなに長いあいだちっともかまってくれなかったくせに」
「それはへんな言いがかりですよ。ミホ、忘れないでくれねえ。昼間墓場のそばのところでもう決してハジメないと誓っただろう」「あたし今ハジメているのじゃありません。ちかったことは忘れませんよ。あたしはうそが大きらいです。今だってあなたをちっとも責めてなんかないでしょ。ただじぶんがわからなくなったんです。あなたはあたしが好きなのかしら。それがわからないの。ほんとうはきらいなんでしょ。きらいならきらいとはっきりおっしゃってください。蛇のなまごろしのようにされているのはあたしたまらない」
これがほぼ毎日繰り返されるのです。
しかもこれは私小説、つまりほぼ作者の実体験。それが公に出版されて、こうして時代を超えて読み継がれている訳ですから、ある意味で最強の夫婦なのではないでしょうか。
因縁というからには、かくありたいところです。
今週のキーワード
愛別離苦