かに座
グッバイ・ムーン!
家出から家路へ
今週のかに座は、「寒夜明るし別れて少女駆け出す」(西東三鬼)という句のごとし。あるいは、生きる手段を乗り換えていくような星回り。
作者は数々の女性と浮き名を流した稀代のドンファンであった一方で、夜の女の相談相手や仲裁を買って出ることを厭わず、時に行き場のない女性の面倒を焼くこともあったそうですが、掲句の「少女」すなわち“年下の女”も、そうして作者が関わった多くの女たちの一人だったのでしょう。
自句自解には、ただ「満月で明るいから尚寒かった。わかれの手を振って自分の家に駆けだす少女」とだけあります。
今週も12日(木)に満月を迎えていきますが、満月は物語が“時満ちた”ことの宇宙的サインであり、それまで一つであった男女や仲間たちも、ばらばらになって自分の「家路」につくのです。
おそらく、この「少女」が作者にもとに帰ってくることはもう二度とありませんし、そのことを作者もよく分かっていたのだと思います。
今週のあなたもまた、自分から既に失われつつあるものをよく受け止めた上で、その背中をしかと見送っていくべし。
グルジェフの「月」論
20世紀最大の神秘思想家の一人であるグルジェフの弟子P・D・ウスペンスキーによれば、月は地上の生命に非常に強い影響力をもち、それは太陽よりも強いのだと言います。
「月は我々の運動すべてを支配している。もしわたしが腕を動かすとすれば、月がそうさせているのだ。月の影響なしでは、運動は起こらない。月は古い時計の振り子の重りのようなもので有機的な生命の生活はその重りで動き続ける時計機構のようなものだ。(中略)それ(月)は高次のエネルギーをうけて少しずつ生きるようになっている。ちょうど、魂の素材をひきつける巨大な電子磁石のようなものだ。」(『The Fourth Way』)
つまり、グルジェフによれば、月は地上の生命活動のバランスをとってくれる船の錨(いかり)のようなもので、私たちが普段あまりに覚醒しておらず、自力でバランスが取れないでいるのを、補助してくれているのだと言えます。
しかし、これは裏を返せば、人間が次第に覚醒を深め、地上の生命活動のバランスを自覚的にとるだけの重心感覚をつかんでいければ、もはや月に依存する必要はないのだということでもあります。
それをよくよく踏まえた上で、自分は「月」の側なのか、「人間」の側なのか、改めて考え直してみるといいでしょう。
今週のキーワード
幼年期の終わり