かに座
誘いに乗っていくとき
誘惑と欲望
今週のかに座は、川端康成の『眠れる美少女』の老人のごとし。あるいは、普通に日常生活を送っていれば気が付かずに済んだ、自身の欲望を改めて知っていくような星回り。
「死体を見たい」という欲求は、「性的なものを見たい」や「私生活が見たい」と並んだポルノグラフィーの三大欲求のうちの一つであり、それらは「文学」と呼ばれるものと深く関係しています。
例えば「眠る美少女」への偏愛を描いた川端康成の『眠れる美少女』などはその白眉(はくび)とも言えます。
物語の大筋は、薬で眠っている裸の女の子との添い寝を売り物とする秘密の娼館に(ただし本番は禁止)、60代の老人・江口がある日興味本位で訪れたところから始まります。まあ元気なお爺さんなのですが、この娼館に次第にのめり込んでいく。
二度三度と、江口はかなり高い金額を眠る美少女との添い寝につぎ込んでいくことになるですが、なぜそうなったのか、あなたはピンとくるでしょうか?
この作品が描いているのは、はじめは分かりやすい「性」的な官能に妄想をたくましくしていた老人が、だんだんとそのもっともっと奥底にある「暗さ」に引き込まれていく姿です。
23日(金)にかに座から数えて「潜在意識」を意味する12番目のふたご座で下弦の月を迎えていく今週は、先の江口よろしく、あなたの中で眠っていた欲望が「いい加減に気付けよ」と言わんばかりにむくむくと目を覚ましていくことになるでしょう。
もっと強く誘惑されるものの方へ
先の小説の中に、次のような一節が出てきます。少し長いですが引用します。
「何もわらかなく眠らせられた娘はいのちの時間を停止してはいないまでも喪失して、底のない底に沈められているのではないか。生きた人形などというものはないから、生きた人形になっているのではないが、もう男ででなくなった老人に恥ずかしい思いをさせないための、生きたおもちゃにつくられている。いや、おもちゃではなく、そういう老人たちにとっては、いのちそのものかも知れない。こんなのが安心して触られるいのちなのかも知れない」
そう、私たちが眠る美少女に惹かれるのは、どこかでそこに美しい死体を想像してしまうからでしょう。
そして死体とは、生きている人間よりもずっとずっと生と死の感触を確かめられるものであり、「死」そのものの魅力を体現してくれる代物なのだと言えます。
今週のあなたもまた、江口老人よろしく、うまくいけば1つの扉を開けていくことができるかもしれません。
今週のキーワード
フェチズムが狂っていく