かに座
広い海へ
心の声の反響
今週のかに座は、「世に出ろとわれに蛙の鳴きたつる」(小杉余子)という句のごとし。あるいは、衆生海へとひとり泳ぎ出していかんとするような星回り。
「井の中の蛙大海を知らず」ということわざも、下敷きとして意識されているだろう掲句は、作者が所属結社を退会し独立した俳人としてまさに世に出ようという時に詠まれた句なのだそうです。
井戸の中とも言える狭い結社からいったん飛び出て、俳壇という大海へと漕ぎ出していこうと。
そういえば、親鸞は「一切苦悩の衆生海」などと言って、悩み苦しみ浮き沈みするこの世の衆生のことをよく「海」に喩えたりしたものでしたが、これも掲句とあわせて今のあなたにどこか重なりやすい言葉ではないでしょうか。
狭い井戸にとどまっていた方が、衆生海などに出ていかない方が、とりあえず安心ですし悩み苦しむことも少なく済むかもしれません。
でも、本当にそれでいいの? もっとチャレンジすることがあって、それだけの価値が自分には既にあるんじゃないか? と、心のどこかで声が反響しあっているはず。
その意味では、掲句の「蛙」というのは、あなたの心の奥底の声の現われとも言えるかもしれません。今週はそんな蛙たちの鳴き声を背に、何がしか決断していくにはもってこいのタイミングと言えるでしょう。
博打と臆病
伝説のギャンブラーである森巣博(もりすひろし)は著書の中で「博打で負ける奴はバカなのである!」と豪語しています。そして博打の極意は「勝ち逃げ」であり、それしかないのだと。
ただし現実には、「勝っているのに席を立てない」人がほとんどなのだそうで、これは実感としてもよく分かる気がします。
本来、賭博というのは勝敗確率がほぼ50%、勝ったり負けたりするのが当たり前の話なのですが、一度勝つと「自分はもうちょっと勝てるはず」とつい思い込んでしまう。だからこそ、森巣は「臆病じゃないと、博打では生き残れない。同時に、リスクを冒さないと、やっぱり死んでしまう」とも述べているのでしょう。
これは仕事や人生にも通じる話ですが、肝心なのは、そうした矛盾の荒海の中で、勝ったり負けたりしながら、タイミングを見計らって「顔が水面上に浮いた時に、現金を掴んで逃げる。脇目も振らず、ひたすら逃げる」こと。
今週はこのことを忘れずにいられれば、のちのち喜びが広がっていくでしょう。
今週のキーワード
席を立つ