おひつじ座
心模様に風が吹く
過去と未来の交錯
今週のおひつじ座は、「たんぽぽの絮吹いてをる車掌かな」(奥坂まや)という句のごとし。あるいは、収まるべきものが収まっていく様子をのんびり見つめていくような星回り。
単線しか通っていないような山間のひなびた駅。作者はおそらく電車が停止してすれ違う電車を待つ時間を持て余していたのでしょう。いったん電車を降りて伸びなどしていた拍子に、ベテランの車掌がホームの端のたんぽぽを無造作に摘んで、不意に子供っぽい顔に戻ってふーっと絮(わた)を吹いた。
そんなどこか懐かしい光景を、作者は好感のこもった眼差しで見つめている。わたは風にのって彼方へ運ばれていき、いつかどこかでまた同じような光景が繰り返されていくのかもしれない。
今週のあなたは、ちょうどたんぽぽを吹く車掌としての自分と、それを見つめる作者としての自分の両方を同時に経験していくことになるでしょう。つまり、何の気なしにまったく新たな可能性や変化のきっかけを撒いていくことと、何度も繰り返されてきたこれまでの経験を自分の中に収めていくことと。
外側は大きく変わったようで中身はまるで変わっていなかったり、特に何も変わっていないようで小さいけれど大きな変化が訪れていたり。そういう過去と未来の行き交いの最中に立たされていくでしょう。
意識をズラす
ところで、俳句ではどうして「吹いている」という口語表現ではなくて、「吹いてをる」という文語表現が使われるのでしょうか。
あえて古臭い言い回しをした方が、目の前の景色をより特別なものとして感じられるから? 口語表現だとさらっとし過ぎてしまって、腰が軽いというか、右から左に流れてしまって意識に引っかからないから?
おそらくどちらもだろうけれど、「現在」を味わうために、私たちは過去や未来などの意識のズラすための“置き所”を必要としているのかもしれない。まあ逆に言えば、「未来!」とか、「過去!」といっても、それだけのものに過ぎないということでもあるんですけどね。
今週のおひつじ座へのキーワード
たんぽぽ